毎年のように新たなスターが誕生するハリウッドにおいて、トム・クルーズほどコンスタントに人気作を連発する俳優はいない。
『卒業白書』で若くしてスター候補となり、わずか3年後の『トップガン』が世界規模でブレイクしたことでハリウッドスターとしての地位を手に入れた。
それが1986年のこと。それから約30年、トムはハリウッドの第一線を走り続けている。
トップを独走する俳優
トップガンにおいて、コールサインの「マーベリック(一匹狼)」にふさわしい破天荒な役を演じたトム・クルーズもすでに50歳を過ぎた。
同年代の俳優には、ブラッド・ピット、ジョニー・デップ、キアヌ・リーブスといったハリウッドのトップスターの名前が並ぶ。しかし、トムの存在感は際立っている。
ブラッド・ピットは2005年ころのピークを後に最近はヒット作に恵まれていない。また、彼の演技は高く評価されたものの作品自体が批判的な結果に終わっているものも多い。ジョニー・デップも最近では、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのほかに目立ったヒット作は生まれていない。
キアヌ・リーブスも1994年の『スピード』でトップスターとなったが、その後『マトリクッス』シリーズが完結した2003年以降は勢いがない。
ところがどうだ。
トムは『ミッション:インポッシブル』を人気シリーズに押し上げ、近年では『ジャック・リーチャー』をシリーズ化させ、さらには他の話題作にも出演している。勿論、すべての作品で興行的な成功を収めたわけではないが、ハリウッドのトップに君臨していることは間違いない。
転機
※ジョン・ウー
私の記憶において、トムのイメージや、その後の出演作の方向性を決めたのは2000年に公開された『M:I-2(ミッション・インポッシブル2)』であった。当時、香港で新たなアクションムービーのスタイルを確立させたジョン・ウーを監督に迎え、トム自身もプロデューサーを務めたことで世界的大ヒットを記録した。
注目すべきなのは、前作と同じ役でありながら、前作のインテリ色を消して彼自身の『ミッション:インポッシブル』を作り上げたことだ。前作がかつてのテレビシリーズの続編的なストーリーだったのに対して、同作では作風をがらりと変えてアクションの限界に挑戦している。スローモーションを多用する演出はジョン・ウー監督の得意とするところだったが、バイクによるスタントなしのチェイスや、潜入のためにヘリから頭を下にして降下するなど、スマートでスタイリッシュなアクションを生み出した。
この作品により、トムのイメージは洗練されたアクション・スターに固まったのである。
セレブだが気取らない
トム・クルーズに髭は似合わない。
『ラスト・サムライ』では役作りで髭をたくわえたが、おおよそ、仕事でもプライベートでも髭を生やした顔を見たことがない。いつまでも歳を感じさせず、レッドカーペットに登場したときのタキシードが一番似合っている。
キアヌ・リーブスが来日した際には、ラーメンを食べ歩く姿が目撃されて話題となっているが、トムには似合わない。かといって、ファンとの距離を置くわけでもなく親日家としても有名だ。
ワイルドさはないが、インテリ過ぎもしない。正真正銘のセレブだが、その壁を感じさせないソフトなイメージに違和感を感じるものは少ないだろう。それでいて、スクリーンのなかでは「知的な肉体派」という彼の作り出す世界観に観客は引き込まれるのだから、もはや「トム・クルーズ」というのはブランドなのだと痛感した。キャラ作りといってしまえばそれまでだが、ここまで徹底してくるとさすがプロだと思ってしまう。
しかし、そこに彼がトップをキープしている理由が隠されていた。
トップスターとしての秘訣
『トップガン』が大ヒットした直後は、映画のオファーが殺到したという。しかし、トムは慎重に作品を選んだ。若いながらも役を選ぶというのは高慢に思えるかもしれないが、ここから彼自身による「人生のプロデュース」が始まっていたのである。
目先のオファーに捉われず、長期的なヴィジョンで仕事を選んでいた。それは「作品による役柄の固定化」を避けるためだった。将来、どのような役でもオファーが来るように、様々な役を演じることを重要視したのだ。これは、若い頃に『ハスラー2』でポール・ニューマンと競演した影響も大きい。
※ポール・ニューマン
ポールは、ブロードウェイの舞台に始まり、長年にわたってハリウッドで活躍してきた大物である。監督としても成功を収め、映画界の表も裏も知る俳優であったであった。トムは『ハスラー2』で親しい関係を築いたことにより、ポールから「スターとして一回の成功に惑わされない生き方」を学んだのだ。
トム・クルーズ の世界
『M:I-2』のヒットによりトムのイメージは固まったと書いた。その一方で、彼は自身の役柄の固定化を避けたとも書いた。一見すると矛盾しているように思えるがそうではない。
前者はトム自身のイメージであり、後者は作品がトムのイメージに与える影響のことである。
彼は自身をブランド化し、どのような作品でも「トム・クルーズの世界」へと変える力を持つまでになった。それは彼のセルフ・プロデュースの成果であり、30年にわたってトップをキープし続けた秘訣であった。
勿論、すべてが順風満帆だったというわけではない。
幼い頃から文字の識別が難しい失読症に悩み、新興宗教に傾倒した。そのことが仕事に影響したこともある。結婚と離婚も繰り返してきた。しかし、ハリウッドセレブのなかにいては、その程度のことは霞んでしまうのがセレブ界の実状だ。逆にアメリカではスキャンダルのないセレブは面白みがないと思われてしまう。
こうしたトラブルを乗り越えてこれたのも、トム・クルーズという強力な「ブランド」があったからこそなのだ。
最後に
トムは相手の話を聞くのが上手いといわれている。
そのなかで必要な意見を取捨選択し、作品に反映させる。その相手は監督や先達のスターだけではなく、共演者やスタッフまでと垣根がない。ここまでの地位を築きながらも、常に他者の意見を取り入れる柔軟さと協調性が彼の武器でもあるわけだ。
そのため、どの撮影現場においてもトムは好意的に受け入れられている。
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