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日本の呪術について調べてみた

「希望」「愛」「怒り」「憎しみ」

人間の力が及ばない世界に働きかける「呪術」という行為は、世界に共通したものである。それがいつから始まったのかは定かではないが、確実なのは世界中で同じような儀式が行われてきたということだ。

類感呪術・模倣呪術

日本の呪術について調べてみた

【※左義長の例 wikiより引用】

「あいつを呪ってやる・・・」

誰もが一度は抱いたことのある感情ではないだろうか。「呪術」とは人知を超えた方法で意図する現象を起こそうという試みである。

英語では「Magic」。イギリス人の人類学者J・フレーザーによれば「呪術」は超自然的霊格をコントロールすることで目的を達成しようとするもの、「宗教」は霊格に対して懇願するものであるとして両者を区別している。

国家や自身の宿命を知るための「占術」と同じく、日本に限らず世界各地で呪術的行為は行われてきた。ある部族では日照りが続けば水をまき、太鼓を叩いて雨乞いの儀式を行う。これは降雨と雷鳴を真似る「類感呪術/模倣呪術」と呼ばれるものである。

日本でも五穀豊穣や健康を祈願する儀式や祭りは古くから行われてきた。正月に行われる神奈川県「大磯の左義長(さぎちょう)」もそのひとつである。

エセノカミサン(道祖神)の火祭りで、その年の恵方に向かって火を燃やす。その火で団子を焼いて食べれば風邪をひかない、松の燃えさしを持ちかえれば火除けになるといわれている。「左義長」の祭りは日本各地にあり、一般に正月の14日夜ないし15日朝に行われ、「どんど焼」の名でも有名だ。また盆と同じく鎮魂祭としての意味もあるという。

丑の刻参り

【※竜閑斎画『狂歌百物語』より「橋姫」。 wikiより引用】

また他人を呪うために対象の毛髪や衣服、あるいは人形(ひとかた)に火をかけることも類感呪術のひとつである。これは「丑の刻参り」が一般的に良く知られている。

もともと『宇治の橋姫』の伝説において、夫の後妻に嫉妬した橋姫が鬼となって相手を殺そうと京都の貴船神社にて7日間の丑の刻参りを行ったのが原型とされる。決してそれを見てはならないし、気付かれた場合、呪術者は相手を抹殺しなければならないという決まりもある。また、陰陽師が鬼となった橋姫を祓うために人形を使って祈祷を行うという話もあった。

このように呪術には善と悪の両方があり、前者の左義長のように雨乞いや健康祈願など社会や人のために行う呪術は「白呪術」、それに対して丑の刻参りのように悪意を持って人を苦しめる呪術を「黒呪術」と分類している。

調伏

【※怨霊となった崇徳上皇(歌川国芳画) 。wikiより引用】

黒呪術の他にも、死霊や悪霊、生霊のように祟りを成す存在もある。

特に日本では『源氏物語』に登場する六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊や崇徳天皇の怨霊、菅原道真の怨霊などが知られている。これらは嫉妬や絶望から生まれた呪いの形であり、神仏の力によって退散させることができるとされた。

その方法のひとつが「調伏(ちょうぶく)」だ。

仏教用語で自身の悪心を抑えて除くことであり、悪心を打ち破るという意味もある。

密教においては五大明王などを本尊として法を修して悪に打ち勝つことであり、陰陽師として有名な安倍晴明もその手の話には事欠かない。呪術によって結界を張って人を守ったり、魔物を調伏したという伝説は語り継がれることになった。一説では、晴明が子供の頃、賀茂忠行(かものただゆき)に弟子入りしていたときに、師の忠行より先に「百鬼夜行」が内裏に迫るのを察知できたという。

このように悪しき呪いに対抗するための方法である。

言霊

昔から日本には「言霊」という表現がある。ひとつひとつの言葉には霊や力が宿っていると感じ、言葉で物事を縛るのだ。

「人を愛おしい」という気持ちで縛れば「愛」となるが、憎しみで縛れば呪詛となる。日本で最初に言霊という言葉が見られるのは奈良時代のことだ。歌人・山上憶良(たまのうえのおくら)は『万葉集』のなかでこんな長歌を残した。

『そらみつ 倭(やまと)の国は 皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国 言霊の 幸(さき)はふ国と 語り継ぎ 言い継がひけり』

これは、「大和の国は天皇が統治する由緒ある国である。言霊の幸ある国として語り継がれてきたのだ」という意味である。

そこには中国とは異なる日本という国家意識と、独自の日本語という言霊が宿る霊性を表現しているとも感じられる。

般若心経

【※空海 wikiより引用】

代表的な例は『般若波羅蜜多心経』であり、300文字足らずの短い経典ながら大乗仏教の極意が凝縮されているとされ、弘法大師・空海もその内容を評価している。

特に霊的な力を感じさせる呪文が最後の『羯諦羯諦(ぎゃていぎゃてい)、波羅羯諦(はらぎゃてい)、波羅僧羯諦(はらそうぎゃてい)、菩提薩婆訶(ぼじそわか)』。

これはサンスクリット語を音写したものであるが、簡単に訳すと「彼岸に行ける者よ、幸あれ」ということで、詳細は山田無文(むもん)老師などが残した解説本があるので調べてみるのもいい。

最後に

呪術とは人間の根源的な行為なのかもしれない。それを証拠に、縄文時代の遺跡において既に呪術の痕跡を見ることができる。

目に見えないものを想像して具現化する力は人に授けられた最大の能力で、人間を人間たらしめているといえるだろう。

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