中国史

ラーメンマンのような髪型にしないと死刑だった清王朝 【辮髪】

辮髪とは

辮髪

※画像 辮髪の時代で見る変化 wiki c Kszkkk

辮髪(べんぱつ)とは、中国清朝のシンボルと言っても過言ではない。
ドラマや映画で見たことのある人も多いのではないだろうか。

中国清朝の時代に流行した男性の髪型である。流行といっても、現在の流行の概念とは少し違っている。日本の武士の「丁髷 : ちょんまげ」とほぼ同じ概念であり、残した髪をどうするかは日本と中国では違いがある。

清朝を興した満州族が男性に強要した髪型である。つまり清朝時代の中国の男性は必ずやらなければいけない髪形だったのだ。

辮髪は、頭の前半分(頭頂部よりも後ろ)を剃り、後ろは長く伸ばして三つ編みをする。

私たち日本人からすると、なんとも奇妙な髪型である。その感覚は外国人が武士の丁髷を見るのと同じであろう。
外国人は辮髪を「ネズミのシッポ」「ブタのシッポ」「牛のシッポ」という言葉を使って表現している。

清朝の時代の中でも辮髪は微妙に変化がある。これはいわゆる現代の流行にも当てはまるであろう。

清前期は後頭部に残す髪の範囲は少なく、三つ編みは短い。清中期は残す髪の範囲は少し増え、三つ編みは長くなる。清後期は残す神は頭のほとんど半分、三つ編みもそれにつれ長く太くなっている。映画やドラマで最も馴染みのある辮髪のイメージになっている。

このどう見ても奇妙な髪型はどのようにして生まれたのか?

3つの由来

1: 清朝の前は後金の時代であり、その前身は女真族である。

その女真族に「束机能」という英雄がいた。彼はもともと髪がない禿頭であった。

頭頂部から後ろだけに髪があり、後ろを伸ばして束ねていた。そして清朝の創始者はこの特徴ある髪型を(本人は故意にそうしていた訳ではないが)一つのシンボルにして団結力を高めようとした。そしてこの英雄を記念するものとして後の世代に伝えたという。

2: 満族の祖先は騎馬民族で狩りを生業としていた。狩の最中に髪が木や枝にひっかかったり、視界を遮ることを避けるために頭の前半分の髪を剃ったという。

3: 彼らには薩満教と呼ばれる宗教があった。その教えの中に「頭頂部は天に最も近い部分であり、そこに魂が住む場所である」という教えがあり、非常に神聖な場所とされていた。

辮髪の導入

辮髪

※画像 辮髪にしている場面

満州人が中国を治めることになり、1621年、彼らは全ての男性に「辮髪」を強要した。

1644年にはかなり強制力の高い命令が出された。それは「髪を剃らなければ命はない」というものであった。

満州人にとってこの長く伸ばして編んだ三つ編みは、とても意味のあるものだった。

もし本人が戦死した場合、遺体はその場に埋葬するが三つ編みの髪は持ち帰って名前を付して埋葬されたという。その髪がまるでその者の魂かのような扱いであった。

ところが漢族の男性にとっては、辮髪は非常に受け入れ難いものであった。

なぜなら漢人にとっては髪の毛も父母から賜ったものだからだ。「父母から賜った大切なものをどうして剃る事ができようか」という考え方であった。

当時はこのようなスローガンまで生まれた。

留頭不留髮,留髮不留頭」(頭を残したいなら髪を残すな。髪を残すなら頭は残せない)

つまり「命を守りたいなら髪を剃れ、髪を守りたいなら命を落とすことになる」というものだった。

辮髪は、清朝に忠誠を誓い、満州人と同化するということを表す印となった。

この頭を巡っては反乱が起き、なんと数十万人の命が奪われたという。

このなんとも奇妙な髪型には多くの意味があり、そして多くの物語があったのである。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 明王朝時代の長城で発見された何世紀も前の「石の手榴弾」
  2. 幻の秘薬は人の排泄物だった!? ~古代中国の驚きの漢方薬とは
  3. 万里の長城は時代と共に変化していった 「春秋、秦、漢、金、明」
  4. 【古代中国】 皇帝たちの死生観 「遺体を金の鎧で包み肉体を永遠に…
  5. 隋朝末期の3人の幻のラストエンペラー【皇帝という名の貧乏くじ】
  6. 皇帝も色々…奇抜な皇帝たち 「ニート皇帝、アート皇帝、猜疑心強す…
  7. 【古代中国の伝説の墓】 赤い棺の女性ミイラから「謎の液体」が流れ…
  8. 古代中国の美人メイクとは 「地雷メイク、美白、フェイクエクボが流…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

後醍醐天皇 ~建武の新政【型破りな政治の天皇】

神奈川県藤沢市にある清浄光寺(しょうじょうこうじ)には、国の重要文化財である「絹本著色後醍醐天皇御像…

【光る君へ】 藤原彰子に仕えた小馬命婦(清少納言の娘)〜どんな女性だった?

平安文学を代表する随筆の一つ『枕草子』。その作者として知られる清少納言には、一男一女がありました。…

現地メディアも注目の「マレーシア幸福度調査」初の発表

2022年の今年7月、マレーシア国内における「幸福度調査」がマレーシア現地メディアを通して発表された…

人間とクジラの「会話」が、宇宙人とのコミュニケーションに役立つ?

SETI研究所がザトウクジラの通信システムを研究宇宙人による宇宙文明を発見するプロジェクトを…

日本人と「あの食べ物」の出会いとは? 【カレー、アイスクリーム、タピオカ】

現代社会、特に日本を含めた先進国は、「飽食の時代」と言われて久しい。コンビニエンスストアやス…

アーカイブ