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歴史から学ぶ、正しい謝罪方法とは? 「三木武吉、三遊亭円楽の見事な対応」

謝罪は難しい

芸能人のスキャンダルが話題になるたびに「上手く切り抜ける方法は何だったのか」と考えることがあります。

自分の落ち度によって謝罪をしなくてはいけないとき、人間はどうしても嘘を付いたり、物事を小さく見せようとしてしまいます。しかし結果として、嘘はバレてしまい傷口を広げるだけで、取り返しのつかない状況になってしまった場面を幾度となく見てきました。

正しい謝罪とは一体何なのか…。

そんなときも、やはり歴史から学ぶことができます。今回の記事では、見事な謝罪(会見)を紹介したいと思います。

「正しくは5人です!」

歴史から学ぶ、正しい謝罪方法とは?

画像 : 三木武吉 public domain

終戦直後の昭和27年、衆議院選挙において三木武吉(みき ぶきち)という人物が立候補しました。

ある対立候補が三木に対して批判を加えます。

「この男女同権の世にあって、ある有力候補(三木)は、妾(不倫相手)を4人も抱えている。こんな不道徳な者に政治家たる資格はありません!」

このように言われた三木は、こう答えました。

今、さきの候補から“4人の妾を持っている”と言われたのは、不肖この三木武吉でありますが、それは違います。ここははっきりと訂正させていただきたい!

不倫の事実を否定するかと思うのですが、その直後に三木は言い放ちます。

正しくは5人です!

謝罪をするのでもなく、恐縮するのでもなく、はっきりと肯定した三木。しかも笑いに変えてしまったのです。彼はさらに続けます。

彼女たちは全員、今では老いてしまっております。しかしだからといって、ババァは用済みとばかりに彼女らを棄て去るような不道徳は、この三木にはできません!

ですから、今日も全員きっちりと養っております。そもそも政治家として国民を引っ張っていこうとする者が、いっぺんに何人もの女をケンカもさせず、嫉妬もさせず、操るくらいの器量がなくて、国民を引っ張っていけるはずもありません!」

三木の演説を聞いた聴衆は拍手喝采。彼は見事当選を果たし、彼の不倫を攻撃した対立候補は落選してしまいました。

歴史から学ぶ、正しい謝罪方法とは?

画像:香川県高松市の栗林公園にある三木武吉像 public domain

当選後の三木は、戦後日本の政治体制の構築に大きく貢献しています。

日本民主党を結成し、鳩山一郎内閣を実現。また保守合同を推進し、昭和30年の自民党成立に尽力しました。

自分の落ち度は全面的に認める

自分の落ち度によって相手からの攻撃を受けざるを得ない状況に置かれ、なおかつ自分から反撃できないとき、こちらが敵意を見せてしまうと「待ってました」とばかりに袋叩きにあってしまいます。だからといって、嘘を付けばあとになって暴露され、逃げて隠れようとしてもどこまでも追ってきます。

では正しい対応とはなんでしょうか。

まず相手が望んでいる回答を全面的に認めることです。相手の胸の内をすっきりさせて、自分には敵意がないことを示します。

しかしそれだけではダメです。全面的に罪を認めて、ただ神妙に謝罪をするだけでは、相手は攻撃の手を緩めません。そのため相手が攻撃をしないように、相手の敵意を取り除く必要があります。

“同じ”不倫を週刊誌に暴露された芸能人でも、そのあと生き残りを果たすことができた者もいれば、消えていった者もいます。この違いはやはり、バレたあとの事後処理にうまく対処できるかによって決まります。

「航海(後悔)の真っ最中」

落語家の故・三遊亭円楽は、週刊誌の不倫報道を受けたとき、まさにお手本のような対応を見せています。

円楽師匠は報道内容を全面的に認め、謝罪。不倫相手の女性に罪はないとかばっています。

さらに妻とのエピソードにつなげます。今日の謝罪会見で着ているスーツを妻に着せてもらったとき「身から出たサビだね」と謝罪すると、妻が「サビも(芸の)味になる」と答えたことを明かし、場を和ませました。

そして会見の終了間際には、謎掛けも披露。

「今回の騒動とかけまして、東京湾を出て行く船と解きます」

「(その心は)後悔(航海)の真っ最中」

報道陣の敵意を完全に喪失させた、見事な謝罪会見でした。

清廉潔白な人間などいない

三木武吉と円楽師匠の共通点は、まずは「すべてを認める」という点でした。

清廉潔白な人間など存在しません。思い出したくもない失敗もあるし、人に知られたくないやましいこともあります。もしかすると自分の過去を暴露され、追及されることもあるかもしれません。

そのときは「すぐさま認めて、(小出しにせず)すべてを吐き出し、相手方に配慮を見せる」ことが大切であると、過去の先人は教えてくれます。

その一方で、情報を受け取る側にも注意が必要だと思います。

メディアを通じて流れてくる情報は“売れる”ことが目的です。そのために記事は恣意的に書かれ、大衆を誘導するケースがほとんどです。

メディアの“悪意”ある情報をつなげて、事件の当事者を見てしまうため、どうしても悪人に見えてしまうのです。当事者の生い立ちや家庭環境、人間関係など、さまざまな情報に基づいて客観的な事実を知ったとき、たとえ不倫が事実だとしても、同情してしまう部分が隠れているかもしれません。

断片的な情報だけで判断し、他者を安易に攻撃したり非難するのは、さらなる悲劇を招くことになります

過去の歴史から学び、私たちはもっと冷静になる必要があるのではないでしょうか。

※参考文献:神野正史『現代への教訓! 世界史』祥伝社、2021年7月

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。
フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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