自然&動物

ヒト以外で初めて!? アフリカゾウは互いを名前で呼び合っている可能性が浮上 【米コロラド大研究】

人間が他のあらゆる生物と異なる点は何でしょうか。昔から「道具を使う・作る」「言葉を発する」などさまざま論じられて来ましたが、最近では「個体の識別名を持っている」こととされているようです(※諸説あり)。

古くから「名は体を表す」と言うように、名前は個人の尊厳であり、名前こそが人間が人間として尊重される証であるとする考え方が根強くあります。

しかし近年の研究によって、人間以外にも個体を識別する名前をもつ生き物が存在する可能性が指摘されました。

アメリカCSU(コロラド州立大学)の研究によれば、実はアフリカゾウも個体を識別する名前を持っていることが分かったと言うのです。

彼等はどんな研究を行ったのでしょうか。そして本当にアフリカゾウが互いを名前で呼び合っているのでしょうか。

アフリカ東部・ケニアで野生のアフリカゾウを調査

アフリカゾウは互いを名前で呼び合っている可能性が浮上

イメージ

今回の研究はアフリカ東部のケニアにある「サンブル国立保護区」と「アンボセリ国立公園」の2地域で行われ、それぞれに暮らす野生のアフリカゾウから声(ランブル音。13~35Hzの超低周波音)を採集します。

こうして集まったデータには仲間同士の呼びかけ625件が含まれ、そのうち597件は同じ群れの中でやりとりされていました。

さらにそれら呼びかけのうち、一対一で行われたもののみを分析対象として絞り込みます(※複数の集まりに対して「おーい、みんな聞いてくれ!」的なものは除外)。

その結果、発信者(呼びかけた側)は114頭、受信者(呼びかけられた側)は119頭が観察されました。

研究チームは絞りこまれた音声データの一つ一つを分析。呼びかけた音声波形などの音響特性を基に、誰を呼んだのか特定できる情報つまり名前を探し出します。

すると呼びかけの音響特性から、誰に向けて呼びかけたのかが高確率で判別できることが導かれたのです。

研究者は論文中において「呼び出しの構造から受信者のIDを偶然の予想よりも正確に予測しました」と述べています。

つまり「相手を特定して呼んでいる可能性・精度が高い(※筆者による咀嚼)」と言えるでしょう。

他の動物も使っている「声マネ」じゃないの?

アフリカゾウは互いを名前で呼び合っている可能性が浮上

画像 : 「声マネ」で相手を呼びかけるイルカ。

しかしこれだけではまだ「アフリカゾウは相手ごとに名前を使い分けている」とは言い切れません。

というのは、知能の高い動物が採用している「声マネ」を行っている可能性があるからです。

「声マネ」とは、呼びかける相手の声を真似ることで、相手に「あぁ、自分に話しかけているんだな」と気づかせるコミュニケーション方法です。これなら名前は必要ありませんが、人間に置きかえてみると、ちょっと回りくどい感じですね。

実際にイルカやオウムなどはこの声マネを使って相手にアプローチをかけていることが解明されており、アフリカゾウの呼びかけもこの声マネである可能性が否定できません。

という訳でアフリカゾウたちの声を分析したのですが、発信者の音声データからは受信者の声を真似ている音響特性が認められませんでした。

要するに呼びかける時は自分の自然な声で呼びかけており、特に相手の声マネではなく、相手ごとに特定の発音つまり名前を使い分けて呼んでいる可能性が高いことを示しています。

また研究チームは、17頭のアフリカゾウを対象に別の実験を行いました。これまで採集した呼びかけの中から「彼らに関係ない呼びかけ」と「彼らの名前と推測される呼びかけ」をそれぞれ再生すると、どんな反応を示すかというものです。

やってみるとアフリカゾウの多くは自分の名前と推測される呼びかけに対してより早く反応しました。人間でも何となく呼ばれるより、ハッキリ名前で呼ばれた方が早く反応しなくちゃと思うような感覚だと思われます。

これらの結果を受けて、研究者は「私たちの発見は、ヒト以外の種が受信者を模倣することなく同種に個別に話しかけているという最初の証拠を提供するものである」と研究意義を述べました。

なぜアフリカゾウは互いを名前で呼び合うの?

画像 : アフリカゾウの家族。人間には分からないし聞き取れないが、何か話し合っているのだろう(イメージ)

今回の研究によって、アフリカゾウが相手ごとに個体を識別する名前を使って呼びかける可能性が浮上してきました。それでは、なぜアフリカゾウは互いを名前で呼び合うのでしょうか。

答えは当のアフリカゾウたちに訊くのが一番でしょうが、現時点ではうまくコミュニケーションがとれません。とは言え私たち人類がなぜ名前を使うのかを考えれば、だいたい合っているかも知れません。

私たち人類が個別の名前を呼び合うのは、概ね以下の理由によります。

(1)情報を素早く、正確に伝達するため

(2)権利・義務などの関係を明らかにするため

(3)相手の尊厳を大切にするため

※解釈によって他にもいろいろありそうですが……。

アフリカゾウの社会がどこまで複雑化しているのか、あるいはどの段階までの欲求(1.生理的欲求、2.安全欲求、3.社会的欲求、4.承認欲求、5.自己実現欲求)を持っているのかは未知数です。

しかしアフリカゾウは死んだ仲間の葬式を行ったり、殺された仲間の復讐を行ったりなど、人類でも多分に共感できる精神性や行動原理が確認されています。

もしかしたら、アフリカゾウは私たち人類が考えている以上に、高度な知性と豊かな感受性を持っている可能性は低くなさそうです。

今後、アフリカゾウの音響特性から「ゾウ語」が解明されたら、思いもよらなかった叡智を授かれるかも知れませんね。

 

アバター画像

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか不動産・雑学・伝承民俗など)
※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【船を沈没させる方法を学んだシャチ】 ホワイト・グラディス ~「…
  2. 【奇跡の脱出劇】クジラに飲まれた男たちが生還できた驚愕の真相
  3. 【奇跡の鶏マイク】 頭部を失った鶏が、なぜ1年半も生きたのか?
  4. 台湾で起こったクジラ爆発事件 「悪臭が数ヶ月続く」
  5. なぜ深海魚はエイリアンのように見えるのか?
  6. 『1万年前に絶滅したオオカミが復活?』DNA操作で生まれたダイア…
  7. 鏡に映った自分を認識できる動物とは?
  8. 霊長類は 4000万年前から自慰行為を行っていた 「した方が進化…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

岩見重太郎 「化け物退治をした後に大坂夏の陣で散った伝説の剣豪」

岩見重太郎とは岩見重太郎(いわみじゅうたろう)とは、父を殺されその仇討ちのために各地を旅…

【関係者が次々と死亡】 ハリウッドで最も呪われた映画「Atuk」とは

関わった人が不幸になると言われる呪いの映画は、意外と数多い。1982年公開の「ポルターガイス…

【犠牲者数250万人?】国が滅ぶほど過酷すぎた隋の暴君・煬帝の大運河工事とは

隋朝とは隋(ずい)は、中国史において幾つかの面で重要な役割を果たした王朝である。…

「金と権力」欲しさにアメリカ大陸を発見したコロンブス

大西洋を縦横無尽に旅した航海士時代15世紀後半、ヨーロッパ人たちにはまだ知られていなかったア…

火薬は「不老不死の薬」の研究中に生まれた

銃や大砲などの兵器や、ロケットの推進薬として使われている 火薬。火薬の発明は人類史に…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP