海外

「マカオのエッグタルトとその歴史」 アンドリュー・W・ストウの遺産とは

マカオとは

画像 : マカオのスカイライン public domain

マカオは、中華人民共和国に属する特別行政区であり、香港の隣に位置している。

異国情緒あふれる街並みと、歴史的建造物が多くの観光客を魅了しているが、それだけでなく「カジノの街」としても世界的に知られている。

画像 : カジノ「グランド・リスボア」、「リズボア」、「ウィン・マカオ」 public domain

マカオの歴史は、1557年、中国の明朝時代にポルトガル人がマカオに上陸したことに始まる。
以後、東洋と西洋の文化が融合した独特の歴史を刻むこととなった。

1887年には光緒帝がポルトガルに「マカオ永駐管理権」を与えたことで、ポルトガルの影響力がさらに強まった。

第二次世界大戦中、マカオは中立国であったポルトガルの植民地であったため戦禍を免れたが、戦後の世界秩序の変化に伴い、1999年12月20日にマカオの主権は中国に移行し、400年にわたる植民地の歴史に幕が下ろされたのである。

今日でもマカオの街中には、イエズス会が建設した教会が数多く残っており、歴史の痕跡が至る所に見られる。

マカオグルメ

マカオの代表的なスイーツとして「エッグタルト」が挙げられる。

画像 : 葡式蛋撻(ポルトガル式)。マカオにあるマーガレット・ウォンのカフェで提供されているもの wiki c Jpatokal

このスイーツは、マカオの街角で広く販売されており、特に有名な店舗に「アンドリューのエッグタルト」がある。

エッグタルトは、約20年前にマカオから日本にも紹介され、現在では大阪の道頓堀に店舗が存在しており、日本でもその味を楽しむことができる。

アンドリューのエッグタルトは、サクサクで分厚い生地と濃厚なカスタードクリームが特徴であり、多くの人々の心を掴んで離さない存在となっている。

これは、創業者であるアンドリュー・W・ストウ氏が持つ美食へのこだわりと、伝統的な製法によるものである。

アンドリュー・W・ストウ

画像 : アンドリューコーヒー店 public domain

アンドリュー・W・ストウ氏は1956年に生まれ、1979年に工業薬剤師としてマカオにやってきた。

彼は美食家としても知られており、健康食品についての深い知識を持っていた。

彼は「Tropical Health Food」という会社を設立し、ヨーロッパから良質なベーカリーを輸入する事業を開始したが、当時のマカオ人に「健康食品」の概念は浸透しておらず、事業は成功しなかった。

しかし、アンドリュー氏は諦めず、1989年9月15日に「アンドリューベーカリー」を設立し、パン屋としての営業を始めた。
彼は、ポルトガル式エッグタルトを商品として開発し、その材料と製法にこだわり、マカオの人々に愛される味を作り出したのである。

2005年、アンドリュー氏はマカオの観光に対する貢献が認められ、勲章を授与された。

しかし、2006年10月25日、50歳の若さで突然の喘息により逝去した。
この知らせはマカオのみならず、世界中に広まり、多くの人々が彼の死を悼んだ。

彼の死後、妹が店を引き継ぎ、現在では娘がその後を継いでいる。

画像 : アンドリュー氏の娘 public domain

現在のアンドリューベーカリー

現在のアンドリューベーカリーは、マカオに6店舗が存在し、120人の従業員を抱え、毎日9000個ものエッグタルトを販売している。

さらに、日本、韓国、フィリピンに支店を展開している。マカオの各店舗では、毎日行列が絶えず、アンドリュー氏が築いたエッグタルトの人気は今も続いているという。

中国と西洋の文化が融合した歴史を持つマカオで、アンドリュー氏が生み出したエッグタルトは、歴史の一ページとして刻まれ、今もなお多くの人々を魅了し続けているのだ。

参考 :
マカオ政府観光局 | Lord Stow’s Bakery
文 / 草の実堂編集部

 

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「16歳で生贄に」 古代チベットの恐ろしい儀式と双子姉妹の悲劇 …
  2. 江戸時代の人気料理について調べてみた
  3. ビールの歴史 「美味しいビールは産業革命の賜物」
  4. 宮崎のご当地グルメのすごいところ!【東京の宮崎料理店】
  5. おでんの歴史と種類について調べてみた【鍋料理ランキング不動の1位…
  6. 【世界で最も悲しい写真】オマイラ・サンチェスの悲劇「人災が招いた…
  7. 驚愕!日本には千年超えの老舗企業が9軒も存在 「京都の2軒の老舗…
  8. 平壌を走るボルボ「北朝鮮問題にスウェーデンが絡む理由」

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

「爆弾を落とすな」トランプがイスラエルのネタニヤフ首相に警告、蜜月崩壊の可能性

2025年6月、国際社会の注目を集める一報が飛び込んできた。アメリカのドナルド・トランプ大統…

終わりの始まり 曹丕の即位【早すぎた魏の初代皇帝の死】

影の薄い魏の皇帝 曹丕いくつもの時代の転換期がある三国時代だが、魏は史上初の「禅譲」という形…

F-22について調べてみた

米空軍の現在の主力戦闘機「F-15 イーグル」は初飛行から40年以上が経ち、F-15の不足を補うため…

戦国の陣形 「日本の戦で実は全然使われてなかった」

陣形は、古代中国で生まれた八陣が最も有名で、孫子や諸葛孔明が用いたという伝承があるが、実は本…

【古代中国】どれくらい『休日』があった? 「漢・唐・宋・元・明・清を比較」

古代人の方がストレスがなかった?現代社会では科学技術が発達しているが、人々のストレスは減るどころ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP