砂糖は毒なのか?
近年、インターネット上やSNSで「害のある物質」と非難されるようになって久しい砂糖。
「砂糖は血液を酸性にし、それを中和するために骨や歯からカルシウムが溶け出す」
「砂糖を食べることは万病のもと」
「砂糖を摂取するとキレやすさ、うつ状態、ADHDを招く」
このような記事や投稿を目にしたことがある読者も多いのではないだろうか。
私たちの日常生活には縁の深い砂糖とは、それほど危険な食品だったのだろうか。
今回は、その正しい姿を把握していこう。
砂糖の歴史
そもそも、砂糖とはいつから存在していたのだろうか。
本来、サトウキビの原産地はニューギニアの近辺と考えられており、紀元前8000年頃には既に東南アジア地域で栽培が始まっていた。
紀元前327年頃に遠征中のアレクサンダー大王もサトウキビを目にしたといわれている。
この頃はまだ、サトウキビの搾り汁を利用しており、製糖を行うまでの技術はなかった。
サトウキビから砂糖を生み出す製糖技術は、紀元前2〜3年頃にインドで成立していた。
インドに隣接した中世イスラム世界ではサトウキビの栽培が広がり、アラビア人の手によってエジプトや中国などへ伝えられていった。
11世紀になると十字軍がヨーロッパへサトウキビを持ち帰り、地中海近辺でのサトウキビ栽培が始まった。
現在一般的に利用されているような精製糖の生産は、1738年頃のイタリアから始まった。
また、1747年にはドイツの科学者がテンサイ(サトウダイコン)からの製糖を行うことに成功する。
日本へは、唐(当時の中国)から遣わされた僧侶の鑑真が奈砂糖を伝えたとされる。文献によると、当時の砂糖は黒砂糖であり貴重な品だった。
そして、今日のような調味料としてではなく薬として用いられた。
外国との貿易が盛んになるにつれ、日本への砂糖の輸入量も増加した。
江戸時代になると幕府が政策として鎖国を行うようになり、スペイン・ポルトガル・東南アジアとのやりとりが規制されたため砂糖の輸入量は減少した。その分、日本国内において製糖が行われるようになった。
徳川吉宗が琉球(現在の沖縄)からサトウキビを本土に取り寄せ、サトウキビ栽培を進めたという記録がある。
砂糖の歴史は、世界の歴史に勝るとも劣らないほど長く、そして人間社会への影響もまた大きいものだった。
「砂糖は毒」派の言い分と科学的根拠
「砂糖は毒」と主張する人達の言い分はだいたい以下のようになる。
「子供がキレやすくなる」
「骨や歯が溶ける」
「万病のもと」
さて、とても恐ろしく聞こえるが、科学は砂糖について何と言っているだろうか。
基本的に、人体はエネルギー源を摂取することによって生命活動を行っている。エネルギー源となる三大栄養素は炭水化物・タンパク質・脂質であるが、ヒトの脳はブドウ糖(炭水化物)しかエネルギー源とすることができない(飢餓状態を除く)。人体の色々な臓器とは異なり脳には血管関門があり、ブドウ糖以外のエネルギー源を受けつけられないのだ。
つまり、砂糖をはじめとする炭水化物は、脳を動かすための重要な栄養素であることは間違いない。一日に、成人の脳は約120〜150グラムのブドウ糖を消費するといわれる。
また、糖はエネルギー源としてだけでなく筋肉の発達にも寄与している。食事によって糖分を摂取すると膵臓からインスリンが分泌される。インスリンは各細胞に糖を取り込ませる働きがあると知られているが、それ以外の働きもある。運動時にはタンパク質の分解と合成という変化が起きているが、実はインスリンはタンパク質の分解を抑え、合成を促す作用も持っているのだ。
こういった働きをもつ糖が、一部の人々に言われるほど悪者扱いされているのは何故なのだろうか。
それは、砂糖自体が悪というよりは、現代的な生活習慣と食習慣の問題にあるといえる。
過剰な精神的ストレスと慢性的な運動不足、安価な清涼飲料水とジャンクフードに加工食品。これらがすべて生活習慣に組み込まれてしまうと、心身を健康に保つこと自体が難しくなってしまう。
「砂糖が骨を溶かす、キレやすくなる」という主張を考えてみよう。
普段からストレスが蓄積していればキレやすいのは自然なことだ。
砂糖が骨を溶かすというよりも、砂糖を大量に含むコーラや一部の加工食品にはリン酸が添加されている。このリン酸は過剰摂取するとカルシウムの吸収が妨げられるため、間接的に骨が脆くなることは考えられる。
また、炭水化物を摂取するとブドウ糖が細胞内でATPという物質を生成・分解してエネルギーを生み出すが、この過程でビタミンB1が消費される。
ジャンクフードの栄養素は炭水化物や脂質が大部分を占めており、ビタミンやミネラル分に乏しい。そのため、栄養バランスをとっていかない限りカロリー摂取過多になりがちだ。エネルギー過多による肥満と運動不足、ストレスが揃えば二型糖尿病の引き金としては満点だ。
このように、砂糖自体が悪というよりも他の様々な因子が重なって心身の健康を害しているという基本的な点を今一度確認しておきたい。
砂糖は毒どころか薬だった?
昔は貴重であった砂糖は、薬として利用されていた。
甘いものや栄養が足りない時代だから砂糖が薬のように珍重されたと考えることができるが、砂糖を薬学の分野で利用しているのは、令和の現代になっても実は続いている。
医薬品に関する品質規格書である『日本薬局方』にも、「白糖」として他の薬品と並んで載せられている。
用途としては、内服薬の味を調節する、形を整えるといったものから、統合失調症治療のために行う「インスリンショック療法」を行う際の危険な低血糖状態を防止するためにも用いられる。
現代では健康を害するものとして槍玉にあげられている砂糖だが、それは使い方の問題にすぎないということを確認させられる。
最後に
砂糖を諸悪の根源とするような文章がまだまだ見られる現代。
言うまでもなく過剰な糖分摂取は体の害になるが、糖が脳をはじめとした体に必要な栄養素であることも事実。
いたずらに「砂糖は毒」という論調に惑わされないためには、多角的な視点が必要だ。
医師から食事制限を課されている人を除けば、基本的には砂糖だけにとらわれてもナンセンス。月並みな表現にはなるが、バランスよく適量を食べて体を動かすことが一番体のためになる。
「砂糖有害論」の是非に心を振り回されず、体を動かして心身の調子を整えるのが最適だ。
糖質を摂取しすぎたと思ったら、スクワットやプランクなどの気軽なトレーニングでエネルギーを消費していこう。
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