自然&動物

人間も大型動物も食い殺すアリ 「最強軍隊アリの生態」

軍隊アリとは、強い攻撃性を持ち軍隊のように隊列を組んで進み、時には人間や象をも襲うアリである。

そんな軍隊アリの生態とはどのようなものなのだろうか。

軍隊アリとは

「最強軍隊アリの生態」

画像 : 大型の昆虫を捕食するサスライアリ属の群

軍隊アリとはハチ目アリ科の中で、サスライアリ属・ヒメサスライアリ属・ヒトフシグンタイアリ属・ヒメグンタイアリ属・ショウヨウアリ属・マルセグンタイアリ属・グンタイアリ属の7種類の総称である。

軍隊アリ」という1種類が在るわけではない。

またこの7種は3つの亜科に分けることも出来て、亜科ごとに生息地が違う。サスライアリ亜科は中央アフリカ、ヒメサスライアリ亜科はアジア、グンタイアリ亜科は南北のアメリカ大陸に生息している。

グンタイアリ亜科の働きアリで1.5センチ程で、女王アリは2センチ程の体長であり、サスライアリ亜科はグンタイアリ亜科より大きく、女王アリでは5センチにもなるものもいる。

日本では西表島と沖縄諸島にヒメサスライアリ亜科のヒメサスライアリとチャイロヒメサスライアリの2種類が生息している。体長は3ミリ程と小型の種類で人間は襲わないのだが、「アリに恐れられているアリ」と言われ、他のアリを捕食してしまう。

また軍隊アリは一部のグンタイアリ属を除いて「盲目」のため、視力の代わりに仲間のフェロモンの匂いと周りの振動を頼りに移動経路を認識して、行動することが出来る。

群れは女王アリを中心として、産卵期以外は定住場所を定めず、狩りをしながら移動を続ける。

組織構成と階級

軍隊アリは女王アリを中心として、数十万から数百万匹程の群れ(コロニー)を形成している。

過去には2000万匹ものコロニーも確認されたことがあり、群れの中では階級がある。群れの頂点には女王アリがおり、産卵を担当し群れを大きくする役割をしている。その卵の数は1ヶ月で400万個といわれる。

その下の階級となるオスアリは、女王アリの繁殖相手となる。そしてオスアリの下の階級に位置している働きアリがおり、この働きアリの中にも4つの階級がある。

まずは、群れの隊列を作り整えるいわば指揮官の役割をするアリが「メジャー」、次に荷物を運ぶ運搬担当のアリが「サブメジャー」、その下に獲物を攻撃し捕える狩り担当のアリである「メディア」、そして1番下に位置しており、群れの移動の際には自身を道や橋とする土木担当のアリが「マイナー」という。

変幻自在の最強橋と集団攻撃

「最強軍隊アリの生態」

画像 : 架橋する軍隊アリ wiki c

軍隊アリの群れは常に移動を続けており、時として離れた木の枝へ、また川をまたいで向こう側へ渡る場面などが多々ある。

そのような時は、マイナーの働きアリ達がお互いの体をその強靭な顎で噛んで連結し合い、橋や足場を作る。しかもこの行動は指揮を出すリーダーがいるわけではなく、マイナーのアリ達が自身で考え「橋や足場を作れば最短距離で移動出来る」と結論を出し行動しているのである。

このように個々が使命を持ち、考えて成り立っているアリの群れは約8000種類いるアリの中で軍隊アリだけとされている。

また移動と同時に狩りも常に行っている。そしてこんな言葉がある。

「森ではアリの行列を踏むな」

なぜならもし軍隊アリの群れを踏んだり遮ったりすれば、アリ達に襲撃されてしまうからだ。

そのやり方は、まず自身の非常に大きな牙で噛みついて獲物を食いちぎる。

また腹部の先端にある毒針で刺す。毒針を使用する場合はその大きな牙を獲物にしがみつくフックとして利用する。この毒針はそれほど強い毒性は持っていないが、集団で何度も繰り返し刺すことで十分に獲物を仕留める力が発揮される。獲物が動かなくなるまで延々と刺すといわれ、このような集団攻撃においては軍隊アリの右に出るものはいない。

獲物は昆虫や爬虫類などの他に、時には人間や獰猛な肉食獣、大型動物の象でさえ対象となる。

軍隊アリによる事件

もし軍隊アリに遭遇してしまっても、通常は振り払ったりなどして逃げることが可能だ。

しかし家畜のように繋がれていたり、病気で動けない牛や馬が軍隊アリに襲撃されてしまうと短時間で食い殺されてしまう。

過去には「人間が食い殺された事件」もある。

2009年にボリビアで40代の男性が飲酒をし、木の下で寝てしまった。その後、運悪くアリ達に襲撃されて亡くなってしまったのである。

また2014年には、メキシコで1歳の赤ちゃんが食い殺されてしまう事件も起きている。

軍隊アリに襲われれば、ヘビなどの爬虫類なら数時間で骨だけの状態になり、人間ですら1日で白骨化する。

拘束された状態の人間を軍隊アリに襲わせるという、残酷な拷問もあるという。

軍隊アリの天敵

軍隊アリは、群れの行動を邪魔するものは見境なく徹底的に攻撃する。ところがそんな軍隊アリでも「天敵」が存在する。

数種類いる天敵の中で代表的なのが「テキサスホソメクラヘビ」というヘビの仲間だ。

「最強軍隊アリの生態」

画像 : Rena dulcisは、一テキサスブラインドスネークとしても知られるヘビの一種

このヘビは皮膚から特殊な物質を分泌する。この物質のせいで軍隊アリは攻撃が出来ずに一方的に捕食されてしまうという。

他にはアリジゴグ、ウーリーモンキーも軍隊アリを捕食することで知られている。

活動期間と最期

軍隊アリが活発に狩りをするのは幼虫を育てるために栄養が必要な時期だけで、女王アリが産卵する時期に入ると倒木などの下にしばらく定住する。この時は狩りも小規模となり、またアリ達は仲間同士で絡み合い、その時期を過ごすための群れの巣を作る。

群れは常に女王アリを中心に統率の取れた階級制の下で行動をしている。しかしその統率が乱れてしまう場合がある。軍隊アリは殆どが盲目のために群れの前方の仲間のフェロモンの匂いを頼りに進んでいるが、何かのきっかけで群れからはぐれてしまう時がある。そうなるとはぐれたアリ達は行く先を見失い、お互いのフェロモンの匂いを頼りにし合って、はぐれた群れの中でぐるぐると永遠に回り続けてしまうことがあるのである。

この現象は、ほとんどのアリ達が疲れ切って死ぬまで続くことから「デススパイラル」と呼ばれている。

そのため軍隊アリ達は群れからはぐれないために、フェロモンの匂いが蒸発しにくい午前中や日没後に狩りを行うとされる。

しかし軍隊アリの群れ自体にも終わりがある。

女王アリは生きている間、オスアリと繁殖を繰り返して群れを大きくし維持しているが、女王アリの寿命は10〜20年で、女王アリが死んでしまうと群れはそれ以上大きくなることは出来ずに消滅してしまう。

また、オスアリや働きアリの寿命は1年程のため、何かのきっかけで女王アリを失ってしまった場合も、群れは1年程で消えてしまうことになる。

軍隊アリは、抜群の統率力と攻撃力を持ち合わせている最強のアリである。できたら遭遇したくない昆虫である。

 

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

    • 有明の月
    • 2024年 7月 08日 5:11pm

    昔、軍隊アリ?の映画を見たことがある、あった。

    0 0
    50%
    50%
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 阿蘇観光の楽しみ方「阿蘇山、牧場、特急あそぼーい」
  2. 日本の夏は昔と比べてどれくらい暑くなったのか? 【1875年以降…
  3. 「クマムシ」のタンパク質が、人間の老化を遅らせる可能性
  4. イングランドで愛される犬と猫たち【公務員として働く猫】
  5. 【あなたを母親だと思ってる?】 飼い猫の仕草には様々な意味があっ…
  6. 2050年には食べられなくなる?食卓から消えるかもしれない3つの…
  7. 日本史上最悪の獣害「三毛別羆事件」から110年|なぜクマは増え、…
  8. 富士信仰について調べてみた【富士山は誰のもの?】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

中国の『債務帝国主義』とは「低中所得国を巨額融資で支配する?」

世界各地で進むインフラ建設の背後には、中国が掲げる「一帯一路」構想がある。道路や鉄道、港湾の…

米軍の制式採用拳銃について調べてみた

2017年春、米陸軍の制式採用拳銃の後継機がドイツに本社を置くシグ・ザウエル社のP320に決定したと…

【若く美しいカリスマ皇帝が豹変】 狂気に取り憑かれたカリギュラの最期

若く美しい皇帝が期待を背負いながら、ある瞬間を境に独裁者へと豹変したなら、民衆にとってはまさに悪夢の…

室町幕府最期の将軍・足利義昭 【信長を包囲網で追い詰めるも敗北 〜追放されたが生き続けた将軍】

室町幕府最期の将軍 足利義昭足利義昭(あしかがよしあき)は、室町幕府最期の第15代将軍を…

官僚の底辺とか言うな!平安貴族たちの激務を支えた官底とは 【光る君へ】

平安貴族と聞いて、多くの方は「さぞ、のんびり優雅に仕事してたんだろうなぁ」とイメージするかも知れませ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP