エンタメ

【鎌倉殿の13人】石橋山合戦のドラマを演じる狂言「文蔵」と能「七騎落」のストーリーを紹介!

ポストを見ると、鎌倉能舞台さんのチラシが投函されていました。

入っていたチラシ。野村萬斎の真剣な眼差しが素敵ですね。

どれどれ……演目を見ると以下の通り。

【講演】父子の愛-石橋山のドラマ 大河ドラマに因んで~頼朝の旗揚げ~
講師:葛西聖司(アナウンサー・古典芸能解説者)

【狂言】文蔵(ぶんぞう)
主演:野村萬斎

【能】七騎落(しちきおち)
主演:観世喜正

令和4年(2022年)大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送開始を目前にして、地元・鎌倉でもムードの高まりが感じられます。

ところで、この「文蔵」「七騎落」とは一体どういう物語なのでしょうか。今回は両作のストーリーを紹介。皆さんの後学に資すれば幸いです。

何を食ったか思い出せない…狂言「文蔵(ぶんぞう)」

ある時、太郎冠者(たろうかじゃ)が勝手に旅へ出てしまい、ふらりと戻って来たところへ主人が𠮟りつけます。

「こらっ、貴様どこへ行っておったか!」

太郎冠者は「実はご主人の伯父上様をお見舞いに、京へと参っておりました」とのこと。

「それにしたって、勝手に行くやつがあるか。向こうだっていくら下人とは言え、食事の支度くらいは手間がかかるのだから」

で、食事は何を出されたんだ?相応のお礼をしなければならないため、主人は太郎冠者に尋ねますが、これがなかなか思い出せません。

「えーと……確かご主人がよう読まれている『源平盛衰記(げんぺいじょうすいきorせいすいき)』の石橋山合戦に出て来る食べ物とか何とかと聞いたような……」

範囲広すぎだろオイ!とは思いながら、じゃあどのシーンで出て来たのか、思い出させるために主人は『源平盛衰記』を語って聞かせ始めました。

真田与一能久(佐奈田義忠・左)と俣野五郎景久(右)の死闘。歌川国芳筆

日ごろ愛読しているだけあって、情感たっぷりに聞かせる主人の物語りが本作の見どころ。さて場面は石橋山の合戦、源氏方の若武者・真田与市(さなだ よいち。佐奈田義忠)と平家方の荒武者・俣野五郎(またの ごろう。俣野景久)の一騎討に移ります。

「あ、思い出しました。文蔵です、文蔵。叔父上様は『真田が乳母に文蔵と答うる』と言っていました。それを食わせてくれたんです」

文蔵(文三)とは真田の郎党であるが……あぁ、温糟(うんぞう。味噌と酒粕で煮た粥)のことを言っておるのか。まったく、たったそれだけ思い出すために、散々語らせおって……。

「バカもん!そのくらい覚えておけ!」

「ハイすいませんでしたー」

というオチです。

ちなみに温糟粥は陰暦12月8日の臘八会(ろうはちえ。お釈迦様が悟りを開いた記念法会)に出されるもので、別名を「臘八粥」とも言います。

味噌と酒糟ならばさぞや寒い冬には温まりそうですが、餅や焼き栗、昆布や串柿を入れるなど、様々なバリエーションがあるようで、ちょっと甘い味つけになりそうですね。

戦場にひとり息子を残し……能「七騎落(しちきおち)」

こちらはその石橋山の合戦(治承4・1180年8月23日)で惨敗し、海を渡って逃れようとする源頼朝(みなもとの よりとも)公ご一行様。

追手から身を隠す頼朝公ご一行。歌川芳虎「土肥椙山旗揚」より

「さぁ、早く舟にお乗り下され!」

とて乗り込もうとするご一行でしたが、そのメンバーは頼朝公を含め8名。

源頼朝公
岡崎義実(おかざき よしざね)
新開次郎(しんがい じろう。土肥実平の次男・荒次郎実重)
田代信綱(たしろ のぶつな)
土屋三郎(つちや さぶろう。宗遠)
土肥遠平(どい とおひら。土肥実平の長男)
土肥実平(どい さねひら)
土佐坊昌俊(とさのぼう しょうしゅん)

「まずいですな……」

「何が?」

舟は8名を乗せられるだけの大きさであったものの、主従8名で逃げるのは不吉だと言うのです。

「御殿の父上(源義朝-よしとも)も祖父上(源為義-ためよし)も、主従8名で逃亡したことにより、非業の最期を遂げた悪しき前例があります」

出来ればもう1名見つけて舟に乗せればいいのでしょうが、そう都合よく味方もおらず、ここは誰か1名を取り残して行かねばなりません。

「ならば、それがしが」

菊池容斎『前賢故実』より、土肥実平

迷わず名乗り出たのは土肥実平。この辺りの土地勘があるため、敵の追手から隠れおおせようとしたのでした。

「そんな、父上を置いて逃げるなど出来ませぬ。ここはそれがしが!」

代わりに名乗り出たのは土肥遠平。押し問答の末、結局は遠平が残ることになります。

「さぁ、お早く!ここはそれがしが食い止め申す!」

浜辺にひとり遠平を残し出航する頼朝公主従……こと実平の心中は察するに余りありますが、遠平は遅れて駆けつけた和田義盛(わだ よしもり)らの船団に保護され、父子は再会を果たしました。

「あぁ、よかった。本当によかった……」

実平は喜びの舞を演じ、やがて頼朝公も捲土重来を果たすのでした。めでたしめでたし。

終わりに

以上、狂言「文蔵」と能「七騎落」について紹介してきましたが、ただこうしてストーリーを知るのと、実際の表演を鑑賞するのでは、感動もまったく違うもの。

コロナ自粛でお出かけもなかなか敷居が高い昨今ですが、もしご機会ありましたら是非ともお運びいただければと思います。

<Information>
日本全国 能楽キャラバン!in神奈川
【日時】令和4年(2022年)1月5日(木) 14:00開演
【会場】鎌倉芸術館 小ホール
【料金】5,000円(全席指定)
【主催】公益社団法人能楽協会、公益財団法人鎌倉能舞台
【後援】大河ドラマ「鎌倉殿の13人」鎌倉市推進協議会、鎌倉市

※詳しくはこちら
鎌倉能舞台ホームページ

角田晶生(つのだ あきお)

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか政治経済・安全保障・人材育成など)※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 親の仇はかく討つぞ…寛一郎が演じる「運命の子」公暁の生涯【鎌倉殿…
  2. 黒幕は北条時政?源頼朝を窮地に追い込んだ「曽我兄弟の仇討ち」事件…
  3. 【弱者のルサンチマン】 ニーチェが教える芸能人スキャンダルの本質…
  4. 大阪杯の歴史を調べてみた
  5. 「別班」の起源や活動内容とは 【日米の密約から生まれた組織だった…
  6. 天才軍略家・源義経に欠けていたもの…『平家物語』逆櫓論争エピソー…
  7. 【鎌倉殿の13人】幕命よりも身内の絆…宇都宮頼綱を守った小山朝政…
  8. 【鎌倉殿の13人】現場の苦労も知らないで…源実朝を痛罵した歴戦の…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

キリスト教は飛鳥時代に伝来していた説【平安京と秦氏】

皆さんは、キリスト教伝来をどのように覚えているだろうか「あのザビエルが伝えたのでしょう?」と…

アラモ砦の戦い【映画にもなったテキサス独立叙事詩】

アクション映画などにおいて、米兵が危機に陥ると、「アラモ砦だ!」と言っているのを聞いたことはないだろ…

コレラは江戸時代に日本に上陸していた 「過去に7度のパンデミック」

コレラの歴史今回の新型コレラウイルスの大流行で、日本人である私たちもパンデミックという状態を身近…

安田記念の歴史について調べてみた

安田記念(3歳以上オープン 国際・指定 定量 1600m芝・左)は、日本中央競馬会(JRA)…

【鎌倉殿の13人】幕命よりも身内の絆…宇都宮頼綱を守った小山朝政の心意気

時は元久2年(1205年)閏7月20日、北条義時(ほうじょう よしとき)は父・北条時政(ときまさ)を…

アーカイブ

PAGE TOP