西洋史を学ぶ上で日本人にとってネックとなるのが「政治体制」、つまり「王国」「帝国」「公国」といった国の呼び方といっていい。
日本の場合は平安時代の後半に、天皇が皇位を後継者に譲り上皇となり、政務を行う「院政」が主流となっていたが、鎌倉、室町、江戸時代には武士が政治を行う「武家政治」の時代があり、明治になってその主権が天皇に戻った。
民主主義となった現代でも、象徴としながらも天皇は海外から「Emperor(皇帝)」と識されている。このことから、国際的に見て日本の政治体制の歴史はかなり珍しいものに映るようだ。
それと同じように我々、日本人から見た西洋の政治体制、特に中世から近代までのそれには「なんとなく分かる」程度の知識しかないのが一般的だろう。
王国
そのまま、「王が君主となり国を治める君主制国家」のことである。
日本人にはフィクションも含めて、一番分かりやすい形態だろう。
しかし、王国にも、国王が絶対的な権力を持つ「絶対君主制」、憲法に基づいて国王が権力を行使できる「立憲君主制」などの政体がある。
現在、世界の王国の多くは「立憲君主制」をとっており、実は日本も天皇を君主とした「立憲君主制の国」なのだ。
アジアではタイ王国やブータン王国、ヨーロッパではイギリス、スペイン、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、ベルギーなど、民主的な政治を行いながら「立憲君主制」の歴史を持っている国家は多くある。
一方で「絶対君主制の国」というのは中東に多い。オマーン、クウェート、サウジアラビアなどがそれだ。
多少の誤解を恐れずに言ってしまえば、絶対君主制とは「国王がすべての権力を握り、法律や議会の決定に縛られずに政治を行える国」
立憲君主制は「国王が議会に政治を任せ、自らは憲法が定めた国王としての仕事(外交など)を行う国」というところである。
歴史的には、中世の西ヨーロッパでは絶対君主制の国が多いイメージだが、実際には中央集権的な「国家」という概念がなかったために、中世の王国とは「国王(権力者)が治める領地の呼び名」と考えたほうがいい。
つまり、なんとなく支配者がいて、なんとなく国のようなものが出来上がり、それを「王国」という言葉で表したのだ。
やがて1589年から始まるフランスのブルボン朝(ルイ王朝)などが絶対君主制(絶対王政)を築いたが、近世では例が少ない。
連合王国
この説明がちょっと厄介である。
まず、我々がイギリスと呼ぶ国の正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」という。
連合王国の名の通り、イングランド、ウェールズ、スコットランドの3ヶ国があるグレートブリテン島と、北アイルランドがあるアイルランド島の北東部を領土とした4つの国から成り立っているのだ。その4ヶ国の君主がイギリスの国王となる。そして、現在の君主は、「エリザベス2世女王」である。
【※エリザベス2世】
海外で、イギリスのことを「UK」と表示するのは、United Kingdom(連合王国)の略称であり、これが英語圏における一般的な略称となった。
しかし、実際には「国王は君臨すれども統治せず(The King reigns, but does not govern)」の方針のもと、王室は政治には直接関与せず、日本のように象徴的、儀礼的な立場にあって、主に外交などで活動する。
さらに、かつてはイギリスの植民地であり、現在は主権国家として独立したカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの3ヶ国や、これに加えてイギリス連邦に加盟している全16ヶ国もの国々がエリザベス女王を国家元首としている。
そのため、オーストラリアやカナダのように実質的には「共和国」と名乗っても良い政治体制の国も「オーストラリア連邦」や、単に「カナダ」とだけ名乗るなど、イギリス連邦王国のひとつとして存在するようになった。
つまり、表向きはイギリスに統治を委ねている国々ということになっていて、各国には国王の代理に総督が置かれている。言ってしまえば、連邦に加盟している国々は、どこも「王国」であり、その最高権力者がエリザベス女王という建前になっているのだ。
帝国
これも色々な意味で使われる。
国家の意味としては「王国よりも大きな地域を支配していて、そのなかには複数の民族や地域が含まれる国であり、皇帝が統治する国家」といったところだ。
もっと分かりやすく言えば「王国の集まりが連合王国」なのに対して「複数の王国を支配下に置くのが帝国」である。王国よりも強大で、君主(皇帝)の支配力が強いと思えばいい。
古くは、古代の「アッシリア帝国」「バビロニア帝国」などに始まり、有名なローマ帝国、そして、近代ではロシア帝国、ドイツ帝国、大日本帝国などが存在した。また、植民地を持っていたイギリスやスペインなどは本国と合わせて「イギリス帝国」「スペイン帝国」などとも呼ばれ、王国の上位に帝国が位置するのが分かる。
但し、大日本帝国だけは他の帝国と違い「天皇が古代から日本国内の国々を統治してきた天皇国家である」という意味で、明治の王政復古により国号を「大日本帝国」に改めた。
武家政権が政治を動かした時代にあっても、その上位には常に天皇がいたことで、現代でも日本の天皇は「現存する世界最長の皇帝の末裔」として、外交の場での地位は高い。その地位はアメリカ大統領よりも上であり、同格と言えるのはバチカンの法王や、イギリス国王(女王)くらいのものなのだ。
【※今上天皇 明仁(あきひと)陛下】
公国
「公国」もまた、日本では耳にすることが多い。「モナコ公国」は有名であり、私も以前に「モナコ公国」「リヒテンシュタイン公国」などを記事として書いている。
公国の「公」とは、貴族を意味しており、貴族(なかでも爵位の高い大公や公爵)が君主として治める国のことを指す。
かつては、王国や帝国に組み込まれた小国であった。国というよりは領地と考えたほうがいいだろう。しかし、こうした形態は中世までのものであり、現在では「モナコ公国」「リヒテンシュタイン公国」に「アンドラ公国」を加えた3ヶ国しか存在していない。
最後に
はっきり言って、政治体制を簡単にまとめることはできない。日本語の「王国」や「帝国」といった言葉も国や時代の違いにより、その意味するものが異なってくるからだ。
さらに日本やイギリスのように民主主義国家でありながら「女王」や「天皇(皇帝)」を象徴として国家元首とする国もある。
そこで、最大公約数的なまとめ方をして締めくくろう。
王国は国王が統治し、帝国は複数の王国や公国を含めて皇帝が統治する。そして、連合王国は、複数の王国が同列の立場で集まったものであり、対して帝国は統治するすべての国の上位に絶対的な権力を有する皇帝がいる。
長くなってしまったが、このように考えていれば大体の西洋史における政治体制は分かるだろう。
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「ロシア帝国の歴史とロマノフ朝について調べてみた」
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院政は上皇だろ
ご指摘ありがとうございます。
修正致しましたm(__)m
日本が立憲君主制だと!初耳!!
一つ賢くなってよかったね