ダンテ・アリギエーリとは
ダンテ・アリギエーリは、14世紀のイタリア、フィレンツェを代表する作家である。
彼の書いた「神曲」と言う名の叙事詩はイタリアのトスカーナの方言で書かれた詩である。当時、文章はラテン語で書くのが常識であったが、神曲は一般の人でも読めるようにフィレンツェの方言で書かれた事で多くの人に読まれ、中世を代表する名作になった。
神曲
神曲は「地獄篇 煉獄編 天国篇」の3つの篇で構成されており、この中で地獄篇は最も有名であり、現在の地獄のイメージを形成した程である。
今回は、ダンテの神曲「地獄篇」について解説していく。
神曲地獄篇のあらすじ
暗い森の中で目が覚めたダンテは、古代ギリシャの詩人ウェリギリウスに導かれ、かつて一目惚れした今は亡き美しい女性ベアトリーチェの魂に会いにいくため、あの世へ旅する事になる。
天国に入るには、地獄から入り煉獄を通る必要があった。
ダンテが地獄の門をくぐると、九層にもなる漏斗状の地獄が存在し、各層には様々な罪によって地獄へ送られた魂が苦しみを味わっている。
ダンテはウェリギリウスの道案内で様々な歴史上の人物、地獄を守る悪魔に出会いながら、最深部の9層目に到達する。
そこには魔王ルシファーがいてダンテのことを待っていた。
地獄の構造
第一層辺獄(リンボ)
キリスト教成立以前の洗礼を受けていない者が行く地獄である。呵責こそないが希望もないまま永遠に時を過ごす。
キリスト教の教えでキリスト自身が十字架に張り付けられたことで人間の罪である原罪を全て引き受け、その後の人間は原罪における罪を受けなくなり天国に行けるようにったという教えがある。
つまりキリストが亡くなる以前の人間や他の宗教の人間は、善人であったとしても原罪によって辺獄に行かなければならない。(原罪とは人間が生まれた段階ですでに背負っている罪のことで、アダムとイブが禁断の果実を食べたことの罰を子孫である人類も受けている罪である。)
地獄の入口では、冥府の裁判官ミノスが死者の行くべき地獄を割り当てている。
第二層 愛欲者の地獄
肉欲に溺れた者が、荒れ狂う暴風に吹き流される。
第三層 貪食者の地獄
大食の罪を犯した者が、ケルベロスに引き裂かれて泥濘にのたうち回る。(ケルベロスは三つの頭を持った地獄の番犬である)
第四層 貪欲者の地獄
欲張りと浪費の罪を犯した者たちが、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る。
第五層 憤怒者の地獄
怒りに我を忘れた者が、血の色をしたスティージュの沼で互いに責め苛む。
第六層 異端者の地獄
あらゆる宗派の異端の教主と門徒が、火焔の墓孔に葬られている。
二人の詩人はミノタウロスとケンタウロスに出会い、半人半馬のケイロンとネッソスの案内を受ける。
第七層 暴力者の地獄
他者や自己に対して暴力をふるった者が、暴力の種類に応じて振り分けられる。
・第一の環 「隣人に対する暴力」 – 隣人の身体、財産を損なった者が、煮えたぎる血の河フレジェトンタに漬けられる。
・第二の環 「自己に対する暴力」 – 自殺者の森。自ら命を絶った者が、奇怪な樹木と化しアルピエに葉を啄ばまれる。
・第三の環 「神と自然と技術に対する暴力」 – 神および自然の業を蔑んだ者、男色者に、火の雨が降りかかる。(当時のキリスト教徒は同性愛を罪だと考えていた)
第八層 悪意者の地獄
悪意を以て罪を犯した者が、それぞれ十の「マーレボルジェ」(悪の嚢)に振り分けられる。
・第一の嚢 女衒 – 婦女を誘拐して売った者が、角ある悪鬼から鞭打たれる。
・第二の嚢 阿諛者 – 阿諛追従の過ぎた者が、糞尿の海に漬けられる。
・第三の嚢 沽聖者 – 聖物や聖職を売買し、神聖を金で汚した者(シモニア)が、岩孔に入れられて焔に包まれる。
・第四の嚢 魔術師 – 卜占や邪法による呪術を行った者が、首を反対向きにねじ曲げられて背中に涙を流す。
・第五の嚢 汚職者 – 職権を悪用して利益を得た汚吏が、煮えたぎる瀝青に漬けられ、12人の悪鬼であるマレブランケから鉤手で責められる。
・第六の嚢 偽善者 – 偽善をなした者が、外面だけ美しい重い金張りの鉛の外套に身を包み、ひたすら歩く。
・第七の嚢 盗賊 – 盗みを働いた者が、蛇に噛まれて燃え上がり灰となるが、再びもとの姿にかえる。
・第八の嚢 謀略者 – 権謀術数をもって他者を欺いた者が、わが身を火焔に包まれて苦悶する。
・第九の嚢 離間者 – 不和・分裂の種を蒔いた者が、体を裂き切られ内臓を露出する。
・第十の嚢 詐欺師 – 錬金術など様々な偽造や虚偽を行った者が、悪疫にかかって苦しむ。
第九層 裏切者の地獄
「コキュートス」 嘆きの川と呼ばれる氷地獄。
同心の四円に区切られ、最も重い罪、裏切を行った者が永遠に氷漬けとなっている。裏切者は首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らす。
・第一の円 カイーナ – 肉親に対する裏切者 (旧約聖書の『創世記』で弟アベルを殺したカインに由来する)
・第二の円 アンテノーラ – 祖国に対する裏切者 (トロイア戦争でトロイアを裏切ったとされるアンテーノールに由来する)
・第三の円 トロメーア – 客人に対する裏切者 (旧約聖書外典『マカバイ記』上16:11-17に登場し、シモン・マカバイとその息子たちを祝宴に招いて殺害したエリコの長官アブボスの子プトレマイオスの名に由来するか)
・第四の円 ジュデッカ ‐ 主人に対する裏切者 (イエス・キリストを裏切ったイスカリオテのユダに由来する)
地獄の中心部にはかつては天使でありながら神に対して反乱を起こしたルシファーがいて、コキュートスに半身を凝らせた状態で幽閉されている。
ルシファーはキリストを裏切ったユダ、カエサルを裏切ったブルータスとカッシウスをかみ砕きながら二人と対峙することになる。
ダンテの地獄の後世の影響
ダンテの地獄篇に登場する地獄の門を、彫刻として作品にしたのがロダンである。
ロダンの有名な作品である「考える人」は、この地獄の門の作品の一部である。
ダンテの地獄のイメージは言葉で書かれていたが、視覚的なイメージとしてこの世に送り出したのはボッティチェリであろう。彼の描いた絵画の地獄の図は、ダンテの神曲と同じくらい有名な作品となった。
ダンテは文学の世界だけでなく、絵画や音楽といった芸術にも大きな影響を与えている。彼はイタリアで人気の人物でもあり、現在の2ユーロ硬貨にはダンテの肖像画が描かれている。
キリスト教の力が非常に強かった時代に、フィレンツェの方言で誰でも読めるように宗教的文学を書いたことは挑戦的であったと言える。
なぜならカトリック教会はラテン語でのみ宗教的事柄を記すことで、特権的な力を持っていたからである。
一部の人間にしか読めないという事は自分たちで都合のいいように解釈して教えを広めることが出来たからだ。そのことによってカトリック教会から目を付けられてもおかしくなかった。
ダンテの挑戦的で素晴らしい文学のおかげで、後の「デカメロン」や「ドン・キホーテ」などの大衆文学の道が開けたともいえる。
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