人物(作家)

ヨーゼフメンゲレ 〜南米に逃亡したナチス狂気の医師

アウシュビッツでの生体実験

ヨーゼフメンゲレ

※画像 : 南米潜伏中のメンゲレ(1956年撮影)Josef Mengele

ヨーゼフメンゲレ は、悪名高きかのアウシュビッツ強制収容所において「死の天使」の異名をとった狂気の医師です。

親衛隊大尉でもあったメンゲレは1943年にアウシュビッツに配属されると、そこで専属の医官を務めて数々の残忍な生体実験を行いました。

メンゲレは双生児に対して、遺伝情報に人種間の優劣などの謎を解き明かす鍵があるのではないかと考え、並々ならぬ執着をよせていました。

そのため、アウシュビッツ強制収容所に送られてくる囚人たちの中から双生児を選び出しては無意味な外科手術を施しました。

その数は約3,000名以上にも上り、内約2,800名が死亡したとされています。

東部戦線にも従軍

メンゲレは、1911年にドイツのギュンツブルク地方で実業家の裕福な家庭に生まれました。

以後医学の道を歩んだメンゲレは大学では人類学と遺伝学を修め、ヨーロッパ中に名を知られた遺伝学の権威・フェアシュアー博士の下に学びました。

このフェアシュアーがナチスの人種理論の熱狂的な信奉者であったことから、メンゲレも大きな影響を受けたものと考えられます。

メンゲレは1937年にナチスへ入党、翌年には親衛隊に入隊しました。

ヨーゼフメンゲレ

※画像 : アウシュヴィッツ強制収容所で撮影(左からリヒャルト・ベーア、ヨーゼフ・メンゲレ、ルドルフ・フェルディナント・ヘス)

1940年には武装親衛隊に志願して、軍医として東部戦線の前線勤務をしています。

しかし1942年に負傷を負ったことから、翌1943年5月にアウシュビッツ強制収容所に配置転換されて、そこで生体実験を行うことになりました。

メンゲレは先の双生児への生体実験以外にも、アウシュビッツの専属医官として収容所に送られてくる囚人たちを寄り分ける役割を担い、多くの囚人たちをガス室へと送りました。

南米への逃亡

アウシュビッツ強制収容所にソ連軍が近づいた1945年1月、ナチスは証拠隠滅のためメンゲレが使用していた施設を爆破しました。

そこにあった様々な記録も処分され、メンゲレ自身も逃亡しました。

ヨーゼフメンゲレ

※画像 : メンゲレのパスポート

連合軍はメンゲレを拘束すべく指名手配しましたが、4年に渡って潜伏を続けたメンゲレはスイスからイタリアへと逃れ、そこから南米のアルゼンチンに逃げ延びました。

西ドイツ当局とイスラエルのモサドなどの追跡を受けながらも、メンゲレはドイツ本国の親類の援助を受けて南米において事業家としても成功を治め、1979年2月にブラジルで心臓発作で死亡するまで逃げ続けました。

因みにメンゲレの師であるフェアシュアーも罪を問われることなく、ミュンスター大学の遺伝学の教授として1969年に死亡するまで教鞭を取りました。

不気味な伝説

ブラジルの奥地にあるカンディド・ゴドイという集落では、ナチス・ドイツが唱えたアーリア人種の特質、金髪・碧眼の双生児が通常の10倍もの割合で誕生したと報告されています。

この集落は1960年代にメンゲレに似た人物が医師として訪れて、薬を処方したという不気味な伝説が囁かれました。

但し医学的には近親婚が多い小さな集落において、双生児が多数生まれる例は他にも報告されていること、この集落での高い双生児出産は1990年代まで継続していたことなどから、あくまで噂の域をでないものと考えられています。

ナチズムと医師

ヨーゼフメンゲレ

※画像 : ティーアガルテン通り4番地に建つ、T4作戦の歴史案内板 wikiより

メンゲレが手を染めたナチス・ドイツのアーリア人種の創造という積極手法と呼応して、不要と見做された人間への「断種」や身障者・精神疾患患者に対する政策は「T4作戦」と呼称され、1939年から中止される1941年までの間に、凡そ7万人とも言われる人たちが安楽死させられたと言われています。

驚くべきことにナチス統治下とは言え、この時代、約半数に上る医師がナチ党員であったと言われています。

よって「T4作戦」に対する一般人からの異議は多数あったものの、医師からの抗議はたった1件しかありませんでした。

医師としての良心よりもむしろ、劣悪な遺伝子を排除するという生物学的な淘汰を医師自らが当然のように考えていた状況だったのです。

参考文献 : ヨーゼフ・メンゲレの逃亡

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. アメリカで最も危険な女性〜 腸チフスのメアリー 【毒を巻き散らす…
  2. 「19世紀の基礎 」ナチズムに影響を及ぼした反ユダヤ主義の聖典
  3. ハドリアヌス について調べてみた【ローマ最盛期の皇帝】
  4. アドルフ・ヒトラーとオカルティズムについて調べてみた
  5. エリザベス1世はなぜ「ヴァージン・クイーン」と呼ばれたのか? 【…
  6. 第一次世界大戦に従軍した意外な5人の偉人 【ヘミングウェイ、ディ…
  7. 「皇帝ネロ」は本当に暴君だったのか? 【ローマ帝国】
  8. 【ルイ14世も手にした呪われたダイヤ】 ホープダイヤモンドとは…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

ピョートル1世について調べてみた【身分を隠して工場で働いた皇帝】

共和制の国があまりなかった昔は、国の強さは皇帝や国王の政治スキルにかかっていると言ってもいいほど君主…

巴御前の戦いぶりは伝承どおりだったのか? 【鎌倉殿の13人】

平安時代の末期、信濃国(長野県)に、ひとりの武者がいた。勇猛に戦場を駆け、薙刀と弓で…

【12月25日と1月7日、クリスマスの真実】 キリスト教の歴史と東西教会の分裂

クリスマスは2つある「12月25日」と言えば、多くの人々にとっては「クリスマスの日」として知られ…

性依存症とは何か?その偏見と実態

近年、ニュース等で話題になっている依存症。薬物やギャンブル、アルコールなど、さまざまな依存症…

台湾の「人気インフルエンサー」が起こした愚かな事件

晩安小雞とは?近年、台湾を騒がせた事件がある。晩安小雞事件である。晩安小雞とはいわゆるイ…

アーカイブ

PAGE TOP