海外

リヒテンシュタイン公国 について調べてみた【時を止めた国】

スイス、オーストリアと国境を接する世界で6番目に小さい国

中欧において極めて特殊なこの国を知っている者がどれほどいることか。
しかも、ヨーロッパで最も豊かな国だということを。

今回は、時間が止まった国ともいえる「リヒテンシュタイン公国」について調べてみた。

タックス・ヘイブン

リヒテンシュタイン公国
※リヒテンシュタインの国土

南北25km、東西6kmの国土は日本の小豆島とほぼ同じ面積である。だが、この小さな国の人口は約3万5,000人とされる。ヨーロッパではバチカン市国、モナコ公国、サンマリノ共和国に次いで、4番目に小さな国であるにも関わらずだ。

だが、人口が過密状態というわけではない。

なぜなら、実際にリヒテンシュタイン国籍を持っている国民は1/3ほどだ。
他の国民は、外国企業の社員やその家族、大富豪など、住所こそリヒテンシュタイン公国になっているが、居住実態のない者も多い。

それは、この国が「タックス・ヘイブン」だからである。税金が免除されることを理由に外国企業を誘致し、その法人税によってヨーロッパで最も豊かな国となった。同じ公国であり、リヒテンシュタインよりわずかに少ない面積を持つモナコ公国タックス・ヘイブンである。

リヒテンシュタイン家の資産

リヒテンシュタイン公国
※首都中心部

法人税が税収の40%を占めるため、国民に対する直接税がない。これは、国民から徴収しなくても財政的に影響がないばかりか、1人あたりのGDP(国内総生産)もEUに加盟する28ヶ国のなかでもトップクラスなのだ。

同時に国家元首であるハンス・アダム2世のリヒテンシュタイン家の資産規模も欧州ではトップクラスである。

リヒテンシュタイン家の家訓として「優れた美術品収集こそが一族の栄誉」というものがあり、代々の家長は500年以上にわたりヨーロッパにおける美術品の名品を収集してきた。その数は3万点ともいわれ、英国王室に次ぐ世界最大級の個人コレクションとなった。しかし、個人の総資産ではハンス・アダム2世が世界一、次いでイギリスのエリザベス女王といわれている。

その豊かさは、欧州の名門「ハプスブルグ家」に仕えてきたことによるものだ。

ヨーロッパ最後の絶対君主制

リヒテンシュタイン公国
※ハンス・アダム2世

この国をさらに興味深くしているのは、世界でも数少ない立憲君主制ということだろう。しかし、イギリスと同様に議会もあり、首相もいる。とはいえ、議会は一院制で、議員定数は25人というのは、国の規模に対して多いのか少ないのか判断に迷うところだ。

なにしろ、国土と経済力があまりにかけ離れているため、議会もどの規模が適切なのか外から見てもわからない。

ちなみに国家元首、首相とは別に摂政としてハンス・アダムス2世の長男、アロイス・フォン・リヒテンシュタインがおり、現在では公国の元首代行を務めている。ハンス・アダム2世もリヒテンシュタイン公として健在だが、実質的な権力はアロイス公子に譲っている。また、他の立憲君主国に比べ、元首の権力が強いのも特徴である。

そのため、「ヨーロッパ最後の絶対君主制」とも評される。

まるで数百年の時が止まったかのような国ではあるが、地理的には過去に幾度もその国土を蹂躙された。

戦争の歴史

リヒテンシュタイン公国
※リヒテンシュタインの位置

リヒテンシュタインの歴史は、第一次世界大戦におけるオーストリアの敗北までハプスブルグ家と共にあったといっていい。ナポレオン戦争、普墺戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦と、4度の戦争を経験しているが、プロイセン帝国とオーストリア帝国がドイツの覇権を巡って勃発した普墺戦争の後に軍を解体し、現在に至るも永世中立国として非武装を貫いている。

第一次世界大戦でも中立を掲げたが、イギリスやフランスといった連合軍に対し、リヒテンシュタインの政治的な立場はドイツと同盟関係にあるオーストリア=ハンガリー帝国に近かったがために厳しい経済制裁を受けることとなる。そこに救いの手を差し伸べたのが隣国スイスであった。

以来、スイスとの関係は強固なものとなり、現在では国防と外交はスイスに委託する形式となっている。

現在の リヒテンシュタイン

リヒテンシュタイン公国
※リヒテンシュタイン城

さて、最後になってしまったが、リヒテンシュタインの現在を見てみよう。
近年では観光地としての認知度も上がっているが、国土の狭さから国内に名所が多いわけではない。

その中で日本人にとって馴染み深いのが「リヒテンシュタイン城」である。公式に認めているわけではないが、この城を含む国全体が映画『ルパン三世 カリオストロの城』に登場する「カリオストロ公国」のモデルといわれている。

最高地点2599mと標高が高いため、農業が盛んでない代わりに精密機器と化学繊維の輸出が主な産業となっている。これは隣国であり、似たような国土を持つスイスも同様だ。また、リヒテンシュタインで発行される切手はコストを掛けた精巧なものであり、さらに発行数も少ないので切手マニアにも有名な国となった。

最後に

ハプスブルグ家に仕えながらも、君主より長く生き残ったのは小国のリヒテンシュタインである。

さらに第二次世界大戦でも中立を守り、ふたつの大戦でその立場を貫き通した。そして、現在はタックス・ヘイブンとして豊かな国となったが、その裏にはその時代における元首の冷静な判断があってこそである。

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コメント

  1. アバター
    • ぼんたろう
    • 2017年 11月 04日 10:08am

    非常に面白い記事ありがとうございます。
    恐縮ですが、タックスヘイブンの覧に「リヒテンシュタインよりわずかに広い面積を持つモナコ公国」と記載されていますが、面積はリヒテンシュタインの方が大きいと思われます。
    「人口」はリヒテンシュタインよりモナコ公国が若干多いですよ。

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  2. アバター
    • いわ
    • 2018年 6月 14日 5:42am

    ドイツ、イタリアとは国境を接してないっす。

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  3. アバター

    修正いたしました。ありがとうございます。

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