2022年の今年7月、マレーシア国内における「幸福度調査」がマレーシア現地メディアを通して発表された。
調査対象期間は、昨年の2021年9月から11月のものであるため、マレーシアのコロナウイルス規制が緩和し始めたタイミングで、国民が抱く幸福の度合いの調査を行なったとされる。
目次
現地メディアも注目の「マレーシア幸福度調査」の実態
マレーシア現地メディア『malaysia mail』の報道によると、「マレーシア幸福度調査」では、家族構成、住宅と環境、社会との関わり、健康、通信施設、教育、労働生活、収入、治安、時間の使用方法、宗教、文化、生きやすさを感じる個人の精神面といった13項目を対象に、幸福度指数(国民の幸せ満足度)を10段階に分けて、住居地域、性別、民族、年齢別といったあらゆる観点から細かく分析した結果を出している。
13項目に寄せられた幸福指数度の全体を平均すると、『6.48』の「幸せである」に該当する支持率を示しており、マレーシアにおける幸福度調査は、まずまずの成績となった。
以下、文章中に記載する幸福指数度の数値は、男女双方の数値を合わせて割り出した平均数値である。
マレーシア国民が考える幸せの拠り所は「家族の存在」
マレーシア国民が最も幸福を感じる対象として選んだのが、幸福指数度『7.23』を記録した『家族構成』だ。
この背景には、『家族団欒』の文化を継承する人々の姿勢が大きく関係している。
マレー系、中華系、インド系と大きく分けて3つの異なる民族が暮らす多民族国家マレーシアには、各々の民族暦に従って毎年盛大に祝われる家族団欒のイベントがあるからだ。
イスラム教を信仰するマレー系民族の場合は、ハリラヤ・プアサ(Hari Raya Puasa)と呼ばれるイベントがこれに該当する。
イスラム暦の9月に当たる月が、1ヶ月の断食期間(ラマダン(Ramadhan))となるため、この長い断食月を終えたあとは、家族や友人を自宅に招いて互いの努力を讃え合う場であるハリラヤ・プアサを開催する文化が浸透しているのだ。
一方、中華系民族は先祖のルーツである中国の大型連休とも称される『春節(旧正月)』を家族団欒で祝うのが通年の習わしだ。
その年の干支に合わせた飾り付けも人々の目を引くため、民族の文化を超えて、記念撮影を行う日常が垣間見れる。1年の中で唯一、家族団欒の機会を迎えられることもあり、中華系の人々が経営する飲食店は帰省のため、休業日となることが多いのも特徴のひとつだ。
ヒンドゥー教信仰者が多いインド系民族の人々の家族団欒で祝う最大イベントといえば、ロウソクの煌びやかな光が印象的なディパバリ(Deepavali)である。
(ディワリ(Diwali)と発音する場合もあり。)ヒンドゥー教の美と幸運、富を司る女神『ラクシュミー』を称えることが由来とされ、地面いっぱいに披露される美しいロウソクの光と、染色された米で絵を描く『ライスアート』がディパバリ最大の見所だ。
マレーシアでは、それぞれの宗教や、文化に特化した祝日期間のほとんどを、家族との時間に当てる習慣が受け継がれているからこそ、家族に対する愛情が人一倍強く、家族という身近な存在と「幸福」を結び付けて考える人が多い。
家族構成の次に『7.21』と幸福指数度が高い『宗教』についても、宗教に基づいた祝日を大勢で祝う文化が継承されているためだといえる。
先住少数民族『オラン・アスリ』の生活から学ぶ家族への思いやり
マレーシアには、マレー系、中華系、インド系といった主要民族の他にも『オラン・アスリ(Orang Asli)』と呼ばれる先住少数民族が暮らしており、そのほとんどが東マレーシアに位置するサバ州(Sabah)やサラワク州(Sarawak)で生活を送っている。
さらに『オラン・アスリ』は、同じ血筋を引く者同士で18もの細かい民族集団に振り分けられるため、親族で肩を寄せ合いながらの生活が浸透しており、その強い仲間意識は、分け隔てなく相手を思いやる家族愛の象徴としても有名だ。
家族との絆を繋ぎ止めるという一心で、先祖が培ってきた独自の農業技術や精霊信仰を守り続ける『オラン・アスリ』の特性からも読み取れるように、マレーシアの人々が幸せを実感できる答えの先には、必ず『家族』という大きな存在がある。
健康に直結する運動環境の提供が人々の幸福感を生み出している
3つ目に高い幸福指数度『6.75』を示したのは、健康面だ。
この健康面については、マレーシア特有の運動を身近に行える環境が、人々に満足感を与えているとも解釈できる。常夏の国であるマレーシアには、四季のある国のような激しい寒暖差の心配もなく、年間を通して体力に負担なく運動を継続させることができるメリットがあるからだ。
また、一軒家が立ち並ぶ住宅街の中心部の一角には広い公園があり、宿泊施設としても利用されるコンドミニアムでは、住人や宿泊者である誰もが無料で利用できるトレーニングジムを完備しているため、日常的に運動できる環境が国民に提供されている。
マレーシアでは、25℃前後と涼しい気候となる明け方や夕方になると、ジョギングや自転車を用いたペダリング運動に励む人々の姿を目にすることが増えるため、持続的な運動を行なっている人が多いことを改めて実感させられる。
幸福度調査の数値から考えるその国の弱点と意識改革
今回、取り上げた「マレーシア幸福度調査」を受けて、調査結果通りの幸福感を抱く人もいれば、それ以上の満足感、またはそれ以下の不満を抱えているといった多くの意見があるだろう。
現に教育『6.35』、治安『6.28』、収入『6.07』など、6段階目の「幸せである」に相当する数値を保持しているとはいえ、国民からの支持率は全体的には低い傾向にある。
誰もが安全で全く危険のない生活を送れる国を創ることは難しくとも、国外からの関心が集まりやすい教育や治安の面に関しては、現状維持に努めるのではなく、更に人々からの信頼を上昇させるための素早い意識改革を図るべきである。
日常を送る中で、人が「幸せだな」と心から噛み締めることができるかは、自身が置かれている生活環境、経済力や健康、その国の社会保障制度の在り方に掛かっているからだ。
《参考》
・malaysia mail(マレーシア幸福度調査の現地報道記事)
・MTOWN.my「マレーシア幸福度調査」初の発表(日本語での解説)
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