「総力戦」だった第一次世界大戦
1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦は、全世界にまで及んだ大規模な戦争でした。国民全体が参加する「総力戦」が展開され、多くの命が犠牲になりました。
約1700万人の命が失われた、第一次世界大戦。日本人にとっては第二次世界大戦の印象がとても強いですが、ヨーロッパの人々にとって第一次世界大戦の方がショックの大きい出来事でした。
ヨーロッパの人々は、自分たちが世界でもっとも高度な文明を築いていると信じていました。
しかしヨーロッパが第一次世界大戦を引き起こし、その結果として桁違いの命が犠牲になったのです。自らが築き上げてきた文明に対する自信を失い、ヨーロッパの衰退を招いたのが第一次世界大戦でした。
そこで今回の記事では、第一次世界大戦の原因を「国民国家」の視点から見ていきたいと思います。
フランス革命で誕生した国民国家
まず現代の戦争を理解するためには「国民国家」の概念を押さえる必要があります。
国民国家とは、アメリカ独立戦争とフランス革命を通じて成立した概念です。今回はフランス革命をメインに見ていきたいと思います。
フランス革命は1789年に起き、1914年に第一次世界大戦が起きています。この長い期間を通じて国民国家は肥大化し、誰もコントロールできないモンスターになってしまったのです。
それでは具体的に「国民国家」とはどういう概念なのでしょうか。
国民国家とは、現在の私たちが住んでいる世界そのものです。あなたが「日本人(何人でも構いません)」であるなら、そのこと自体が国民国家の存在を示しています。どの人々にも「国籍」が付与されている、という事実が国民国家なのです。
私たちの感覚からすると、国籍は当たり前だと感じるかもしれません。しかし、フランス革命以前には「国家」という概念すら存在しなかったのです。
国家が存在しなければ、国籍も存在しないことになります。
民主主義の成立
なかなか想像できないかもしれませんが、フランス革命以前、土地の所有者は王や貴族などのお金持ちで、各々の所有する土地はモザイクのように点在していました。
ある貴族がどこかに移動するとき、別の所有者の土地を通らざるを得ないため、お互いの通行は譲り合いによって成り立っていました。このような状況では領土の境界を明確に決めることは難しく、国境を明確に定めようとする心理は働きません。
しかし、フランス革命によって土地の所有者が変わります。王や貴族は民衆によって、次々と処刑されていなくなりました。彼らの土地はフランスの民衆に引き継がれましたが、このとき重要な問題が生じます。
どの範囲内に住む人々をフランス人とするか、つまり「国境をどこまで定めるのか」という問題です。これを解決するため“国家”の国境が明確に定められ、国境内に住む人々を“国民”と呼ぶようになります。
「国民国家」の誕生です。
そして国民の所有物になった国家をどのように運営していくのか。国家の運営者、つまり政治家を選出するための方法が必要になります。
その選出方法が「選挙」による多数決であり、ここから「民主主義」が誕生しました。
フランス革命を通じて「国民国家」と「民主主義」という、現代社会を支える根本原理が生み出されることになったのです。
戦争に強い国民国家とナポレオン
国民国家の特徴とは、戦争に強いということです。
フランス革命によって王様や貴族を排除し、彼らの土地は国民自身の所有物、つまり個人の財産にすることができました。
その財産が誰かに侵害された場合、国民は自分の財産を守るために必死で戦うことになります。そのため国民国家は、戦争に対するモチベーションが高いのです。
このモチベーションを利用したのがナポレオンです。
ナポレオンはいち早く「徴兵制」を導入し、連戦連勝を重ねます。そして一時的ですが、ヨーロッパの大部分を支配しました。
徴兵制とは国家が国民を直接徴兵し、国民軍として戦地に送り込みます。この徴兵制のメリットとは何でしょうか。
当時、フランス以外の国家は「傭兵制」を採用していました。給料を払い、専門の兵士を雇うシステムです。一見すると徴兵制の兵士は素人集団であり、傭兵制は普段から訓練を積んでいるプロになるため、傭兵制の方が有利であると感じます。しかし傭兵が1人と国民軍の兵士10人だった場合、さすがに国民軍が勝つでしょう。
徴兵制のメリットは、大量の兵士を戦争に動員できることでした。
傭兵制はお金が掛かるため、大量の兵士を雇うことができず、もし負けそうになったら傭兵は逃げる可能性が高いです。一方の国民軍には高いモチベーションと圧倒的な数の兵士がいます。
ナポレオンが強かった理由は「迅速な徴兵制の導入」「国民軍の高いモチベーション」があったからです。
ナポレオンに敗れた国は「国民国家」を導入し、改革を進めます。そしてナポレオンは「国民国家」に変身を遂げた国々に次々と敗れ去っていきました。
ナショナリズム
これまでの話をまとめてみましょう。
フランス革命によって国民国家が誕生したことで、国民国家は明確な国境を敷き、ここまでが私たちの領土であると主張します。その領土内に住む人々を国民と呼び、同時に領土は国民の財産となりました。
国民が国家を所有することになったため、国家を運営する代表者、つまり政治家を選挙によって決めることになりました。これが民主主義の始まりです。
しかし国民国家と民主主義の結びつきは、国民の戦争に対するモチベーションをさらに高めてしまいます。国民国家は必然的にナショナリズムを引き起こしてしまうからです。国民国家は領土を明確に定めるため、住む領土によって国籍が決まります。この国籍によって、国民としての意識が芽生えるのです。
もし他国に領土の一部を奪われてしまったら、その国の人々は頭に来るし、奪われた領土を取り返したいと思います。これがナショナリズムです。
国民は民主主義によって政治家を選ぶ権利を持っています。2人の候補者がいたとしましょう。1人目は「奪われた領土を戦争によって取り返す」と主張する政治家。2人目は「平和を愛するため、戦争をしません」とする政治家。このとき国民はどちらの政治家を選ぶでしょうか。
民主主義は国民のナショナリズムを高め、国民を感情的、攻撃的にしてしまうのです。そして自分は「正義」であり、相手は「悪」であるという二項対立を煽り、複雑な問題を簡略化してしまう傾向があります。
国民国家の形成によるナショナリズムの拡大。これが第一次世界大戦を総力戦に導いた1つの要因なのです。
終わりに
現在ウクライナで行われている戦争を見ると、国民国家を背景にした戦争はすでに破綻している印象を受けます。
SNSを通じて戦場での出来事はリアルタイムで配信され、都合の悪い情報を国家が隠蔽することはもはやできません。国家が国民を扇動して、ナショナリズムを高揚させることができなくなっています。ロシアでは若者を中心に反戦運動が起こり、政府は弾圧を繰り返していますが、反プーチンの流れを止めることは不可能でしょう。
情報の統制をできない国家は、戦争をするメリットを失いつつあります。果たしてこれからの戦争はどのように展開されるのか、戦争が起きない未来を祈るばかりです。
※参考文献:神野正史『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』祥伝社、2020年7月
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