宗教

「創造科学」とは〜 科学と名のついた疑似科学の代表

創世記をまるごと信奉

インテリジェント・デザイン

創造科学」はダーウィンの「種の起源」に代表される「進化論」に異議を唱え、それを否定して唱えられた「創造論」から生まれた疑似科学です。

「創造論」は、聖書の中でも主に「創世記」の無謬性を唱え、そこに書かれていることは文字通りの事実であると考えるもので、聖書の内容をすべて信じることを前提にしている信仰の一種と言えます。

「創造論」は、宇宙や地球の始まりに関して、ビッグバンや進化を経て数十憶念かけて今に至ったとする自然科学上の通説を否定して、「創世記」の記述通りに約6,000年前に創造主によって創造されたものと主張しています。

アメリカ南部で浸透

アメリカの殊に南部地方において、公立の学校で「進化論」を学ばせるべきか否かを巡って対立がありあました。

ダーウィンの「進化論」に異を唱えて、聖書に書かれている通りに全ての生物は創造主が創ったものであり、ノアの箱舟は伝説ではなく事実であり、地球は始まりから1万年以下であるとする「創造科学」を「進化論」と同じ時間教えないのはおかしいとする議論です。

こうした「創造科学」は、世界の中でも特にアメリカの保守的な地域ほど支持者が多いとされています。

その理由としては、ウィリアム・ジェニングス・ブライアンという3度も大統領候補者となった民主党の政治家の影響が大きかったと言われています。

創造論の土壌

※ウィリアム・ジェニングス・ブライアン

ウィリアム・ジェニングス・ブライアンは、1800年代後半から1900年代前半にかけて活躍した政治家であり、彼はアメリカにおける婦人の参政権や、累進課税などの進歩した制度を実現させた人物でもありました。

ブライアンが「創造科学」に加担した原因は、ダーウィンの「進化論」を人間社会にも応用した「社会進化論」がナチス・ドイツのユダヤ人政策や、アメリカにおける優性思想の根拠とされている現状を憂いたためとも言われています。

どちらにせよ、ブライアンは「進化論」はキリスト教に反するものと考え、その思想の蔓延を危惧して、公立学校においてそれを教えることを禁止する法律の制定を推進し、彼の業績の汚点とも言われています。

裁判での争い

創造科学」の扱いを巡っては、裁判上で争われる事態も発生しました。

アメリカのルイジアナ州においては「公立学校教育法における創造科学と進化科学の均衡的取り扱い」という法律についての裁判が行われました。
この裁判では、1987年に連邦裁判所が「創造科学は反証可能性を保有していないので、科学と呼べない」と認定、法律自体が違憲であるとする判決を下しました。

2005年にはペンシルベニア州のドーバー学区において、「創造科学」を信奉する高校教師が授業に「創造科学」の導入を行おうとした出来事が発生しました。

ここでは、それに気付いた保護者らの訴えによって裁判に発展し、同州の連邦地裁においても「創造科学」を教えることを違憲とする判決が出されました。

この時の担当判事は、「創造科学」は「科学理論ではなく宗教的見解」と述べました。

新理論の発生 インテリジェント・デザイン

こうした「創造論」の違憲判決を通して、その内容が「宗教・信仰である」とする指摘を受けたことから、近年のアメリカにおいては更なる新説としてID(インテリジェント・デザイン理論が提唱されています。

これは「創造科学」をベースとしつつも、より多数の人々の指示を得ようと、世界を創造した存在を「創造者(神)」と表現することを避けて「偉大なる知性」と表現しています。

この「偉大なる知性」が宇宙や地球そのものを設計(デザイン)し、創造したとする理論を展開しています。

この定義によって、ある特定宗教の教えに基づいたものではないとすることで、政教分離を原則とした教育現場においてもこれまでのような排斥を受けないように企図した理論とされています。
しかし科学に立脚する側からは、「創造科学の宗教上の装いを糊塗したもので本質は同様」と評価されています。

関連記事:
ダーウィンの「種の起源」と優生学
古代の地球は巨木世界だった確かな証拠【この地球に山は森はなかった】

アバター

swm459

投稿者の記事一覧

学生時代まではモデルガン蒐集に勤しんでいた、元ガンマニアです。
社会人になって「信長の野望」に嵌まり、すっかり戦国時代好きに。
野球はヤクルトを応援し、判官贔屓?を自称しています。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【中居氏の女性トラブル】なぜ人々は週刊誌(噂話)に熱狂するのか?…
  2. ウィリアム・メレル・ヴォーリズと近江八幡【メンソレータムを普及さ…
  3. 兼好法師に学ぶ 心の健康法 「病を受くる事も、多くは心より受く」…
  4. 実存主義の巨人 ジャン・ポール・サルトルの思想をわかりやすく解説…
  5. 【そら豆のせいで死亡】 実は宗教団体の教祖様だったピタゴラスの謎…
  6. 遠距離恋愛は続かない?近くにいる人を好きになる単純接触効果
  7. お墓・埋葬の歴史と現代のお墓事情について説明
  8. 神社の正しい祈り方について調べてみた

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

宇宙のすべての謎を解く「究極の理論」が存在しない理由

筆者は超心理物理学者として、よく一般向けに科学関連のトピックや最先端の研究分野について講演をすること…

毛利元就「三矢の教え」には元ネタがあった?モンゴル帝国『元朝秘史』より、類似のエピソードを紹介

中国地方を代表する戦国大名の一人・毛利元就(もうり もとなり)のエピソードと言えば、「三矢(さんし)…

グリーンベレーについて調べてみた

特殊部隊と聞けば、ほとんどの人がドアを蹴破り、屋内に侵入して敵を征圧するイメージがあるだろう。確…

佐々木信実のエピソード 「子供だからと侮るな!侮辱に全力抗議した鎌倉武士」

武士の定義には色々あるものの、生命と名誉のどちらかを選ばなければならない状況で生命を選ぶ者は、もはや…

紫式部は『源氏物語』を書いた罪で地獄に堕ちていた?

あの紫式部が、実は死後「地獄に堕とされた」という話があるのはご存じでしょうか。2024年のN…

アーカイブ

PAGE TOP