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NHK「らんまん」主人公のモデル・牧野富太郎は何をした人なのか? 「植物学の父」

NHK「らんまん」主人公のモデル・牧野富太郎は何をした人なのか?

画像.サクラソウ 牧野富太郎著『原色日本高山植物図譜』,誠文堂新光社,1953. 国立国会図書館デジタルコレクション

NHK朝ドラの主人公のモデル・牧野富太郎は、立派な植物学者だということは知られている。

では、牧野富太郎の研究者としての業績はどうなのだろうか。

例えばエジソンなら電気を発明したとか、ノーベルはダイナマイトを発明して大金持ちになったなど、科学者はその業績とともに語られることが多い。

今回は、植物学者・田中伸幸氏の著書『牧野富太郎の植物学』をもとに、研究者としての牧野富太郎の偉大な業績を紹介する。

牧野富太郎の研究とは

NHK「らんまん」主人公のモデル・牧野富太郎は何をした人なのか?

画像.牧野の標本 『植物ノ採集ト標品ノ製作整理』,中興館,大正12. 国立国会図書館デジタルコレクション

そもそも牧野の行った研究とはどのようなものだったのか。田中氏は次のように記述している。

“牧野富太郎の植物研究は、日本にはどんな植物がどこにあるかと全国的な標本採集を精力的に行い、植物を採集しては標本を作製し、それを内外の文献でひたすら同定を繰り返すことにより調べるというものであった”

標本は植物が存在していたことを示す重要な証拠である。

標本の製作工程を大まかにいうと、

1)野外で植物を採集し、
2)新聞紙にはさんで乾燥させ、
3)ラベルを作り、
4)台紙に貼って保存する

という流れとなる。

特に標本ラベルは重要な情報源であるため、必ず採集年月日、採集地、採集者などの情報が正確に記入されていなければならない。

そして、採集した標本とすでに発表されている国内外の文献や過去の標本にあたりながら、それが「何であるのか」その種名をあきらかにする作業が同定である。

牧野は北海道から九州まで、日本各地を精力的にまわり標本採集を行った。それはおどろくべき頻度であり、彼にしか成しえないことだった。

植物を採集して標本をつくり、ひたすら同定を繰り返し調べていく。彼をそこまで突き動かしたものは、「これはなんという名前の植物だろう?」という子どもの頃の好奇心であり、牧野富太郎は日本の植物の名前を調べることを一生の研究としたのである。

牧野富太郎が、日本人の分類学者の中で、日本産の植物に最も多く学名をつけたことはまぎれもない事実である。

牧野富太郎の偉大な業績 その1

画像.ヤッコソウ 村越三千男著『綜合新植物図説』,照文社,昭11. 国立国会図書館デジタルコレクション

学名には、上から「」、「」、「」、「」のランク(階級)がある。例えばシクラメンであれば、サクラソウ目-サクラソウ科-シクラメン属-シクラメンとなる。

牧野富太郎の優れた業績のひとつについて、田中氏は「新科、新属」の創設だと書いている。

“科の創設を行い、かつ現在でもそれが認められていることから、このヤッコソウ科の記載は、牧野のフロラ研究の中の最も輝かしい業績であろう”

明治40年、東京大学の草野俊介が土佐から新種の寄生植物を持ち帰った。牧野はこれを新種のヤッコソウとして論文を発表した。学名は、ミトラステモン・ヤマモトイ・マキノ

はじめ牧野は、ヤッコソウはラフレシア科に属すると考えたが、その後さらに詳細な論文を発表し、ヤッコソウ科とういう独立した新科を創設したのだった。

その他にもシソ科の2属や妻の名前をつけたスエコザサが属するアズマザサ属など、牧野は23の属を作っており、これらは日本の植物分類研究にとって代表的な業績だと田中氏は述べている。

牧野富太郎の偉大な業績 その2

画像.植物画ムジナモ『牧野植物随筆』,鎌倉書房,昭和22. 国立国会図書館デジタルコレクション

“『大日本植物志』の牧野の植物画は、緻密さ、精密さ、構図の美しさ、どれをとってみても他の追随を許さない素晴らしいものである。”

“これらの植物図譜は、日本のフロラ研究に付随して、日本における植物図のレベルを飛躍的に向上させた偉大な功績であった。”

もうひとつの偉大な業績として、田中氏は上記のように牧野の植物図のレベルの高さをあげている。

植物図とは、標本を説明する記載文を補うために緻密かつ正確に描かれた図である。言葉だけでは伝えられない部分を補完する役割があり、カメラの性能が向上した現在でも植物図は記載論文には欠かせないものとなっている。

植物画と植物図の異なる点は、絵から「」が同定できるかどうかである。形や構造を解説する植物図を描くには、サイズ比を精密に再現するできる技量や植物の細部まで観察できる眼が必要となる。

牧野の植物図は1ミリ程度の空間に数本の線が描かれており、その緻密さは「生まれもった眼の良さからきている」と田中氏は指摘している。

牧野は、絵に対する天性の才能と観察眼によって、それまでの本草学で描かれていた立体感も陰影もない平面的な植物図を西洋のレベルまで引き上げ、さらに超越したのであった。

おわりに

牧野富太郎はその業績に関して謎の多い人である。残した標本の数は40万枚とも50万枚ともいわれ、牧野がつけた学名は1500だったり、1500種だったり、はたまた2500種だったりする。このあやふやな数字について田中氏は丹念な調査を行い、正確な結果を提示してくれている。

さらに、「本当の日本植物学の父は誰なのか?」「日本で初めて植物に学名をつけたのは牧野なのか?」など牧野にまつわる謎についても詳しく解説している。

研究者としての牧野の軌跡について書かれた『牧野富太郎の植物学』。手に取ってみてはいかがだろうか。

参考文献:田中伸幸『牧野富太郎の植物学』.NHK出版

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