宇宙

【土星の六角形の謎】研究者のシミュレーションが示した新たな答えとは

土星は、太陽系の中で最も特徴的な天体の一つで、その美しいリングがよく知られている。しかし、その外見だけでなく、土星の北極に存在する謎めいた「六角形の雲」もまた、科学者たちの興味を引いてきた。

この六角形は、1981年に宇宙探査機ボイジャー2号によって初めて発見されて以来、長らく謎に包まれていた。六角形の形成メカニズムやその安定性は、長年にわたって議論されてきたが、最近の研究によりその謎が徐々に解明されつつある。

今回は、土星の六角形の謎について紹介していきたい。

土星の基礎情報

画像:土星 public domain

星は太陽から6番目の惑星で、木星に次いで2番目に大きい巨大なガス惑星である。その主な特徴は、氷や岩石で構成された美しいリングだが、大気は主に水素とヘリウムで構成されている。非常に強い風が吹き荒れ、大気圏上層部の風速は1800km/hにまで及ぶ。地球上で最も強い風は時速約396km/hなため、地球の風よりもはるかに速いといえる。

土星の一日(自転周期)は約10.7時間で、これにより強力なジェット気流が生まれ、独特の気象現象が発生している。

土星には146以上の衛星があり、その中でもタイタンが最大で、薄い大気を持つことで知られている。

土星の六角形

【土星の六角形の謎】

画像:土星の六角形 public domain

この六角形は北緯約78度に位置し、1辺の長さは約14,500km、幅は約29,000km、高さは300kmに達する。六角形は、秒速約89mのジェット気流によって形成され、土星の内部からの電波放射と同じ周期で回転している。

2006年にNASAのカッシーニ計画で再び確認され、アマチュア天文家たちも地球からその画像を取得することができるようになった。

六角形の色は、2012年から2016年の間に青色から金色に変化しており、これは太陽光によって「もや」が形成されたことが原因とされている。

シミュレーション

画像:カッシーニ探査機からの疑似カラー画像 public domain

土星の北極に現れる六角形の形成メカニズムを探るため、多くの科学者がシミュレーションを用いて、その謎を解明しようと試みた。

六角形は、土星の大気中にある強力なジェット気流によって形作られている。

このジェット気流は東向きと西向きに交互に流れる帯を形成し、その間には数多くの渦が発生する。これらの渦がジェット気流を押し曲げることで、帯が六角形の形状に変形すると考えられている。

ハーバード大学の研究者であるヤダフとブロクサムは、従来の研究が土星の大気の「浅い」部分にのみ焦点を当てていたことを問題視し、シミュレーションをより深い層にまで拡張した。

彼らのモデルでは、土星の半径の最も外側10%にあたる層を再現することで、より現実的な大気の動きを模倣しようとした。しかし、このシミュレーションは計算負荷が非常に高いため、全ての要素を網羅することはできなかった。

その結果、シミュレーションによって生成された北極のジェット気流は、六角形ではなく三角形に近い形状となり、実際の土星とは異なる点が見られた。

また、シミュレーションは土星の南半球にも異なる気流パターンを生成したが、これが実際に存在するかどうかについては、さらなる研究が必要とされている。

謎の解明と課題

画像:土星の六角形_拡大 public domain

ヤダフとブロクサムのシミュレーションによって、土星の北極における六角形の形成メカニズムに新たな洞察がもたらさた。

まだ課題は多いとされているが、研究者たちは今後さらに時間をかけてモデルを改良し、土星の北極にある巨大嵐の謎を解き明かすためのより正確なシミュレーションを行うことを目指している。

この研究は、土星だけでなく、他の惑星の大気現象の理解にも貢献することだろう。

参考 : 『NASA – Cassini Mission to Saturn』他
文 / 草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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