いつの時代においても戦争では「隠密性」が求められてきた。
ニンジャのように足音もなく敵陣に忍び込んだり、敵の目を欺いて行動できるような隠密性。しかし、レーダーの開発により、敵から離れていても戦闘機や艦船が隠れられない時代が訪れる。現代のようにステルス技術のない第二次世界大戦では、レーダーの性能が勝敗を分けた戦いも多い。
そこで、1943年、アメリカ海軍はある実験を行った。
史上初の大型実験
1943年といえば、第二次世界大戦の形勢が大きく傾き始めた年である。ヨーロッパでは、ドイツがスターリングラードの攻略に失敗し、軍事力を大幅に低下させ、イタリアは連合国に降伏、太平洋戦戦線では日本軍が次々と南方から撤退していた。枢軸国の勢いが失われつつあり、連合国軍が有利になっていた年。
しかし、アメリカには終戦というゴールの先に、ソ連という大国との覇権争いが見えていた。そこで、さらなる新技術の開発、実験などが行われていた時期でもある。
10月28日、アメリカ・ペンシルベニア州のフィラデルフィア沖に一隻の艦が配置された。駆逐艦「エルドリッチ」である。エルドリッチとその乗組員は、ここで史上初の実験に臨むところであった。
※駆逐艦「エルドリッジ」
レインボー・プロジェクト
実験の目的は、「磁場発生装置テスラコイル」により船体を敵のレーダーに映らなくするという画期的なものである。まさに現代の「ステルス」そのものであり、この実験が成功すれば、アメリカにもたらされるアドバンテージは計り知れない。
しかも、エルドリッジは同年7月に進水したばかりの新鋭艦である。
その艦内には多くの実験用機器が搭載され、実験開始の時を待っていた。そして、その指揮を執るのは、後に原子爆弾開発のための「マンハッタン計画」にも参加した天才物理学者ジョン・フォン・ノイマンであった。
ノイマンは、コンピューター分野においても重要な人物として歴史に名を刻んでいる。現代におけるコンピューターの動作原理を確立し、基礎を築き上げたほどの科学者だ。
※ジョン・フォン・ノイマン
しかし、彼がこの実験を計画したわけではない。実際には、1931年に電気技師のニコラ・テスラが「レインボー・プロジェクト」というステルス化計画のなかで提唱したものであり、当時、すでに故人となっていたテスラに代り、ノイマンが指揮を引き継いでいたのである。
実験の成功
テスラがこの計画を考えた当時、レーダーの原理とは「物体が発生させるある種の磁気に反応する」と考えられていた。
それならば「高周波・高電圧を発生させる装置」で物体の磁気を消滅させれば、レーダーには映らないのではないか?この理論に基づき、テスラは研究を進めており、「テスラコイル」を開発したのである。
※テスラコイル
テストが開始され、エルドリッジを包むように強力な磁場が発生した。
しかし、ここで思いもよらないことが発生する。突如、海面が緑色に光ると、海上でも緑の霧のようなものが発生し、エルドリッジを包み隠してしまったのだ。磁場には色もなければ、肉眼で見ることもできない。しかし、観測艦からは「海面から広がった霧が半球状にエルドリッジを被ったように見えた」という。
次の瞬間、エルドリッジはレーダーからその姿を消した。
実験は成功したのである。
フィラデルフィア実験 異常発生!
ここまでは計画通りだった。しかし、霧が晴れたその後を見て、参加者たちは驚愕した。
エルドリッジそのものが、そこから消えてしまっていたのだ。
しかも、エルドリッジは2,500kmも離れたヴァージニア州ノーフォークまで瞬間的に移動し、さらにまた数分後には元のポイントに戻ってきたのである。
すぐにエルドリッジの内部調査が行われたが、乗組員の多くが異常な状態に陥っていた。
突如、体が発火した者や凍結した者、船体に体が溶け込んだ者、逆に体内に物体がのめり込んだ者、体の半分だけが透明になった者などで艦内はあふれ、わずかに生き残った者も精神に異常をきたし、まともに聴取ができる状態ではなかった。
唯一、無事だったのは実験用機材を収めた部屋であり、鉄の隔壁によって厳重に守られていたために、被害は少なかったのである。
こうして「死亡・行方不明者16人、精神に異常をきたした者6人」という犠牲をもって、実験そのものは成功した。
オカルト説
その後、軍部はこの実験の継続を中止し、フィラデルフィアにおける全ての内容を「重要軍事機密」に分類して封印した。もちろん、関係者にも口外しないように誓約書を書かせているはずである。
だが、この事件を知るという人物のリークにより、実験のことが世間に知られるようになった。しかし、情報をリークしたカルロス・マイケル・アレンデなる人物は、今も特定できていない。
こうした事件が公になると必ず交わされるのが「都市伝説」や「陰謀論」、「UFO」といったオカルト的な要素である。アメリカ海軍もエルドリッジが一度もフィラデルフィアには寄港していないことや、同時期にフィラデルフィアでは、磁気を感知して爆発する「磁気機雷」から艦を守るため、船体に電線を巻き付けて電流を流すことで艦の磁気を打ち消す実験を行っていたことなど、情報を公開して事件を否定している。
しかし、今でもこの事件が多くのオカルトマニアの心を惹きつけているのは事実である。
最後に
この事件は1984年に「フィラデルフィア・エクスペリメント」という題名で映画化され、多くの人々が知ることになった。しかし、私にはこの荒唐無稽な実験に対して、どうしても気になることがある。テスラが提唱した「レーダーは物体が発生させるある種の磁気に反応する」という一文である。そもそも、レーダーは磁気に反応するような原理ではないし、当時からそのことは判明していた。
つまり、実験の大前提に綻びがあるのだ。そんな見え透いたオカルト話は誰も信じないだろう。しかし、逆にいえば、それこそが我々を「オカルトの道へ」ミスリードするための一文だったのかもしれない。マンハッタン計画をカモフラージュするための欺瞞工作だったという説もあるくらいだ。
1943年のフィラデルフィアで、何かが起こった可能性は十分にあるといえるだろう。
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SF界の巨匠が同時期に3人そろって勤務
ちなみに、「フィラデルフィア実験」にかんする裏話として、同実験が行われたとされた時期に、後にSF界の巨匠と称される3人の作家、『宇宙の戦士』で有名なロバート・A・ハインライン、『ファウンデーションシリーズ』で知られるアイザック・アシモフ、『闇よ落ちるなかれ』を代表作とするL.スプレイグ・ディ・キャンプが、揃ってフィラデルフィア海軍工廠で勤務していたそうです。
作家集団などは、時にエイプリル・フール的ジョークのために結託し、たとえば、架空のことをさも現実に起こったことのように「事実っぽく」口裏合わせ、つじつま合わせをして発表するということもあるとか。
そのため、すでに冒頭で記したとおり「フィラデルフィア実験」そのものはフィクションですが、もしかしたらこのフィクションの裏にも、「事実っぽく」口裏合わせをしてそれらしく世間にリリースするという、一流作家3人が仕組んだ壮大な「仕かけ」があったのかもしれません。