自然&動物

霊長類は 4000万年前から自慰行為を行っていた 「した方が進化的に有利だった」

霊長類は 4,000万年前から自慰行為を行っていた

画像 : pexels

史上最大の霊長類マスターベーション研究

ロンドン最大の高等教育機関である『ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン』で、哺乳類の生殖器と交配行為の調査や分析を行っている人類学者、マチルダ・ブリンドル氏は、

「霊長類のマスターベーションは古代からの特質であることを発見し、進化に深く根ざしている。
メガネザルから分かれた後のサルと類人猿の祖先は、マスターベーションをしていたことがわかった。
それはつまり、少なくとも4000万年前、すべてのサルや類人猿の祖先にまで遡る可能性が高いということだ。
また、マスターベーションは、生殖の成功を促進する可能性がある。」

とする研究結果を、科学ニュースのウェブサイト『Live Science(ライブ・サイエンス)』で発表した。

霊長類は 4,000万年前から自慰行為を行っていた

画像 : University College London 校舎 wiki c Steve Cadman

霊長類とは、人間を含めたサルの仲間のことである。

古くからの研究者たちの間では、

「マスターベーションは、げっ歯類(ネズミ、リス、ハムスターなど) から爬虫類まで幅広い動物で行われる。
とくに霊長類でよく見られ、飼育下の霊長類ではさらによく観察されている。

マスターベーションは、遺伝子の継承と矛盾しているように見える。
マスターベーションには時間、注意力、エネルギーが必要だが、しなければ、その分を交尾したり食べ物を見つけたりするなど、生殖の確率を直接高める他の活動に使える可能性があるからだ。

霊長類のマスターベーションは、飼育下のストレスによって生じた異常な行動、あるいは単に高い性欲の副産物であると考えられる。」

というものが定説であった。

しかし、ブリンドル氏は、

「これらの理論では、『なぜ野生の霊長類がマスターベーションをするのか』『なぜパートナーが近くにいるときにもマスターベーションをする霊長類が存在するのか』を説明できない。」

と旧来の研究結果に疑問を抱いた。

そこで、マチルダ・ブリンドル氏とその同僚らは研究チームを設立し、400以上の出版物と論文、150件のアンケート、動物園飼育員や霊長類学者からの観察結果を元に、霊長類のマスターベーションに関する巨大なデータセットを作成した。
マスターベーションに関する研究の比較データとしては史上最多だという。

研究は、霊長類の「種」の約38%、「属」の約79%にまで及んだ。

そして、2023年6月7日、専門誌である英国王立協会誌『Proceedings of the Royal Society B』で、飼育された霊長類のメスの74%、オスの87%野生個体群ではメスの35%、オスの73%がマスターベーションを行っていたとされる研究結果も発表した。

ブリンドル氏の研究チームは次に、コンピューターモデルを使用して、現生種のマスターベーションの習慣、交配システム、性感染症の蔓延を調査。

さらに、そのデータを絶滅種と現生種の間の進化的関係と組み合わせて、祖先種間のマスターベーションの再構築を作成した。

こうして冒頭でお伝えした、「霊長類は少なくとも4000万年前から自慰行為をしてきた可能性が高い」という結論が導き出されのだ。

メスの取り合いで進化してきたマスターベーション

ブリンドル氏は、

「オスのマスターベーションは、生殖管から病原体を除去するため進化的に有利である」

とも主張している。

実際にオスとメスが複数のパートナーを持つ交尾システムを含む種では、マスターベーションはより一般的だったという。

マスターベーションは、オスが低品質の精子を排除するのに役立ち、メスに対して交尾で新鮮で高品質な精子を提供し、受精の可能性が高まるからだ。

つまり、オスのマスターベーションは、メスをめぐる他のオスとの競争の中で進化してきた可能性があるのだという。

しかし、今回の研究では「マスターベーションの原動力が、性欲の強さからくるものかどうか、進化上の利点があるのかどうか」を調査するにはデータ量が足りなかったという。

過去の研究データによると、

「人間の場合、女性のマスターベーションは、精子にとってより住みやすい環境を作り出し、同じタイミングで性交をすると妊娠の確率が高まる」

という研究結果が出ているという。

つまり、マスターベーションが種の存続や進化に影響している可能性があるということだ。

「しかし、これにはマイナス面もある。

女性の場合、性的興奮やマスターベーションによって膣の酸性度が下がり精子を受け入れやすくなる一方で、病原菌に対してはより脆弱になってしまう。」

とブリンドル氏は言う。

研究チームは現在、霊長類、とくにメスのマスターベーションに関するデータを収集し、その行動の進化的目的をより深く調査している。
マスターベーションの頻度と促進要因(原動力)の調査に重点を置いているという。

最後にブリンドル氏は、

「今回の研究では、霊長類のマスターベーションの歴史や機能にフォーカスし、重要な発見があった。
マスターベーションが飼育下か野生かに限らず、多くの霊長類で観察されている事実は、マスターベーションが快楽だけではない健康的、健全な性行動の一部であることを示している。
今後、より多くのデータから仮説をさらに調査し、どの仮説がさまざまな種の、どのような生態学的、どのような社会的状況下でのマスターベーションを説明できるのかを解明していきたい。」

と研究発表を締め括っている。

<参考> LIVE SCIENCE

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 近年注目されている自然農とは? オーガニック農法の種類と歴史
  2. 『1万年前に絶滅したオオカミが復活?』DNA操作で生まれたダイア…
  3. 2050年までに32の米国の主要都市が「海面上昇」の深刻な危機
  4. ヘリコプターの音で、なぜかワニが大興奮 「狂ったように交配を始め…
  5. チワワの祖先 「テチチ」は食用犬で儀式の生贄だった
  6. 野生動物との共生「環境治療、保存医学」とは何か? 第一人者の話を…
  7. 犬がうんちを食べるのはなぜなのか?
  8. 「最近の蚊は素早くなった?」逃げ切る蚊の新習性~効果的な撃退方法…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

金子みすゞ 【儚き童謡作家】の生涯について調べてみた

「こだまでしょうか」金子みすゞ「遊ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。 「馬鹿」っ…

「秘密結社イルミナティ」は実在していた? ~歴史的視点から紐解く

「イルミナティ」という名前を聞くと、多くの人が「世界を陰で支配する秘密結社」を連想するでしょう。…

戦前日本が目指した幻の『弾丸列車計画』 東京~北京を鉄道で繋ぐ仰天計画とは?

昭和39年(1964年)、東京~大阪間に世界初の高速鉄道、東海道新幹線が開通した。昭和39年…

『音を聞くと命が奪われる?』 日本と西洋の“音の妖怪”たちの伝承

「聴覚」は、人間にとって生き延びるために不可欠な五感のひとつである。人類は太古より、茂みに潜…

アジアでも大人気ドラえもん 「中国の変なドラえもん画像」

日本のアニメ海外でも日本のアニメは大人気だ。台湾の今の20代から30代の若者は、…

アーカイブ

PAGE TOP