皆さん、囲碁(いご。碁)は好きですか?
「オセロなら知っているけど……」と言う方もいるかと思いますが、オセロの元になった囲碁もルールはシンプルで、基本的には以下の通りです。
一、礼に始まり礼に終わる(ルールと教えるところと、マナーとして教える教室がありました)
一、黒・白の石を交互に打つ(打つ場所は碁盤の目-線が交差する点)
一、相手の石を囲むと取れる(取った石で相手の陣地を埋める)
一、打ってはならない場所や状況がある(詳しい説明は割愛)
一、将棋と違ってパスが出来る(両方がパスしたら終了)
一、最終的に囲んだ陣地(目-もく)の広さで勝負が決まる
シンプルであるがゆえに奥が深く、習ったその日から始められる一方で、プロ棋士たちが高度な戦いに鎬(しのぎ)を削り、そのプレイ人口は世界中で4,000万人以上にのぼると言われています。
そんな囲碁に由来する言葉は意外と多く、対局(プレイ)したことがない皆さんも、日常生活で使っているかも知れません。という訳で、今回は囲碁にまつわる慣用句を紹介したいと思います。
目次
一目(いちもく)置く
用例「アイツの実力には、俺も一目置かざるを得ない」
相手に対してリスペクト(敬意)を示す意味で使われるこの言葉は、囲碁において弱い方が先に黒石を一つ(これを一目と言います)置いて始めることに由来しています。
この強調形として「一目も二目も置いている」などと言うこともありますね。
岡目八目(おかめはちもく)
用例「そりゃお前さん岡目八目ってモンで、いざやって見ると、そう上手くは行かないよ」
相手との勝負に熱中している当事者よりも、少し離れて見ている方が客観的に状況を判断でき、八目(八手)先まで見通せることを言います。
傍目(はため)八目と漢字を当てることもありますが、意味は同じです。
死活問題(しかつもんだい)
用例「この一問が合否の分かれ目。まさに死活問題だな……」
石が生きられる(陣地を囲める)か、それとも死ぬ(相手にとられる)か……石の「死活」は囲碁の勝負に大きな影響を及ぼすことから、生死を分けかねない重要なことを言うようになりました。単に詰碁(クイズ)を指すこともあります。
定石(じょうせき)
用例「この手の案件は、まず部長に根回ししてから話を進めるのが定石だな」
よく「ていせき」と読む方がいて、それでも意味は通じるから支障はないのですが、ただしくは「じょうせき」です。
ここで言う石とは打ちスジのことで、定め=お決まりの打ちスジ、つまりセオリーを意味する言葉です。
捨石(すていし)
用例「ちくしょう!あの野郎、俺たちを捨石にしやがって!」
作戦の中で助けるのが難しい(あるいは割に合わない)石を見捨て、相手にとらせることで被害を軽減し、全体の勝利を目指すための囮にすること。またはそのようにされた石。
戦略的な判断として、あえて捨石を打つこともありますが、往々にして単に見捨てる意味で使われます。
大局観(たいきょくかん)
用例「目先の利益より、もっと中長期的な事業の大局観が必要だよ」
目先の石をとった、とられたという局地的な有利不利だけでなく、対局の盤面全体、すなわち大局を見据える感覚(観)を指します。
最後に勝利することが囲碁の目的ですから、目先のことにばかりこだわっていては本末転倒というものです。
駄目(だめ)
用例「それをやっちゃ駄目!」
現代では多く何かを禁止する際に使われますが、本来は黒と白のどちらの陣地にも属さない空白地(目)、つまり「無駄な目=わざわざ石を打っても徒労に終わる」ことを意味しています。
わざわざやっても無駄になる⇒やる必要がない⇒むしろそんなことをやるな、という流れで禁止のニュアンスが強くなったようです。
駄目押し(だめおし)
用例「駄目押しだけど、最後にもう一回確認しておいて」
……とは言っても、駄目はそのままにしておくと、勝負が終わった終局後、お互いの陣地を数えにくいため、もはや勝負とは別に(お互いが合意の上で)石を置いて駄目をふさいでおきます。
それが転じて「勝負の大勢に影響はないけど、念のため行うこと」を言うようになりましたが、中には「もうとっくに勝負はついているけど、相手をなぶるため更に攻撃すること」という意味で使われることもあるようです。
布石(ふせき)
用例「大丈夫。こんなこともあろうかと、既に布石は打ってある」
主に対局の序盤、相手の石と戦闘が始まるまでに石を配置して(布いて)おくこと。ハイレベルな戦いになると、この時点で既に勝負が決まってしまうこともあるのだとか。
よく「仕事は段取りが九割」と言いますが、囲碁の世界でも通用する法則ですね。
目論見(もくろみ)
用例「そうか、目論見どおりに言ったか!」
囲碁の陣地(目)を論じ、見当をつけることから転じて計画を立てること、最近では「企(たくら)み、謀(はかりごと)」という若干ネガティブなニュアンスで用いられることが多いようです。
他には目算(もくさん)という表現もあり、こちらは比較的ポジティブな語感のため、状況に応じて使い分けるといいでしょう。
八百長(やおちょう)
用例「あれは八百長試合に間違いない!」
八百屋の長兵衛、略して八百長。この長兵衛、十分な実力をもっていながら、接待のために巧く勝ったり負けたりしてご機嫌をとったことから、真剣勝負でないインチキ試合を指すようになりました。
まぁ、常に全力で当たるばかりが能でもありませんし、その辺りは大人の事情と言うヤツです。
終わりに
以上、囲碁にまつわる慣用句をあれこれ紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。
既に知っている、よく使っている言葉も多かったと思いますが、これらの言葉を使うたび、囲碁の局面を思い浮かべてみると、より深く実感をもって使いこなせることでしょう。
※参考:
楽しい囲碁入門|囲碁学習・普及活動|囲碁の日本棋院
前田富祺 監修『日本語源大辞典』小学館、2005年2月
松村明 編『大辞林 第三版』三省堂、2006年10月
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