日本の史跡には、あまり知られていないものも多い。
華々しい観光地とは裏腹にひっそりと残る異界との接点。それらは、時に神聖であり、時に時間を超えて遺恨を感じさせる。
田谷の洞窟
※洞窟の入り口
神奈川県横浜市栄区にある田谷山「定泉寺(じょうぜんじ)」の境内に、全長1kmに及ぶといわれる大洞窟がある。正式名称は「田谷山瑜伽洞(ゆがどう)」と呼ぶこの洞窟は、かつて修行僧によって掘られた伽藍(がらん)とされ、壁面には仏像や仏画など、見事な彫刻が施されている。伽藍とは仏教における寺院の建物のことである。
現在はあくまでも参拝ための場として、一般公開されている。
横浜市でも栄区は鎌倉に近い場所であり、鎌倉時代から修行の場として使用されてきた。瑜伽洞(ゆがどう)の「瑜伽」とは仏教用語で瞑想を意味しており、瞑想を始めとした修行のために掘られた伽藍なのだという。ノミで洞窟を掘ることも荒行のひとつにあたり、洞窟の壁面には300体もの仏像や梵字、仏画が掘られており、3層仕立ての複雑な構造になっている。
この世のものとは思えないほど幻想的で、荘厳な場所なのだ。
定泉寺公式HP → http://taya-josenji.jp/
神居古潭
※神居古潭を流れる石狩川
先住民族であるアイヌの言葉が、今も随所に残されている北海道。この神居古潭(かむいこたん)は、「神の居る里」を意味する言葉である。
石狩川の急流にかかる木製の白い橋が印象的なこの一帯。伝承によれば、川を渡る手段が船しかなかった時代に、石狩川の両岸を渡るのは命懸けの難事であり、アイヌの民は神に祈りを捧げながら川を渡るのが通例だったという。
さらに河畔に見られる奇岩怪石が作り出す異様な風景とも相まって、神の住む地と考えられていた。また付近には、およそ1200年も前のものとされるアイヌ以前の竪穴住居跡が残されている。現在は、石狩川の急流が自殺志願者を呼び寄せるとして、心霊スポットとしても恐れられている。
腹切りやぐら
※腹切りやぐら
およそ150年の歴史を誇った鎌倉幕府は、1333年(元弘3年)に新田義貞軍の侵攻により終焉を迎えた。
JR鎌倉駅から徒歩15分ほどの山中にある「腹切りやぐら」は現在、北条氏の無念を供養する場所として管理されている。
「やぐら」とは、鎌倉周辺に見られる横穴式の墳墓のことだ。この腹切りやぐらのすぐ手前にある東勝寺跡は、13世紀前半に鎌倉幕府3代目「北条泰時」により創建され、新田軍の侵攻により焼き払われたといわれる。この際、北条氏の一族郎党約870名が自害に追い込まれ、それを見届けた鎌倉幕府最後の執権・北条高時が最後に腹を切った場所がここだといわれているが、詳細は不明である。
遺骨が出土したことはないが、近隣でも有名な心霊スポットであり、このエリアでは気分が悪くなったり、金縛りにあう人もおり、やぐら内には供養のための卒塔婆(そとば)が立てられている。
黄泉比良坂(よもつひらさか)
※黄泉比良坂
島根県松江市には「現世」と「あの世」の境界ともいえる場所がある。
最近ではパワースポットとしても有名だが、「黄泉比良坂」は「古事記」にもその名を残す由緒正しきミステリースポットである。
日本列島を生んだ女神イザナミは火の神カグツチを出産する際にその炎に身体を焼かれて命を落としてしまう。妻への思いを断ち切れない夫のイザナキは、死者の国である「黄泉」へとイザナミを迎えに行く。しかし、彼を待っていたのは腐敗した体を持つ妻の姿であった。姿を見られたイザナミは怒って夫を追い、イザナキは逃げながら大岩で道をふさぎ、どうにか逃げおおせたのだった。
このときの大岩が残されているのがこの黄泉比良坂である。
山陰らしい神話のムードたっぷりのスポットだ。
羽田の大鳥居
※羽田の大鳥居
ひっきりなしに航空機が離発着する羽田空港の敷地のそばに、ぽつりと不自然に残る大きな鳥居。その噂を聞いたことのある人も多いのではないだろうか。撤去しようとすると不幸な事故が相次ぐため、やむなく取り残されるように現存する大鳥居の噂を。
もともとはこの地にあった「穴守稲荷神社(あなもりいなりじんじゃ)」の鳥居であったのだが、戦後、GHQによりこの一帯は整備されて更地にされてしまった。ところが、撤去に関わる米兵や工事関係者が次々に事故に巻き込まれることから、いつしか祟りの存在が噂されるようになる。東京大空襲の際には近くを流れる多摩川の河口に、多くの遺体が流れ着いた場所であるのは単なる偶然なのだろうか?
ともあれ、近代化の波により空港の開発に合わせて場所を移しながら、今日でもこの大鳥居だけは残されている。
最後に
今回は敢えてあまり知られていないスポットや、「パワースポット」でありながら「ミステリースポット」でもある場所を紹介した。これらの場所は見る角度によって表裏一体ということなのだろう。どこも一般開放されているので、気になる方は自身で確かめてもらいたい。
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