どうする家康

石川数正(松重豊)まさかの裏切り! その理由と対策がこちら 【どうする家康】

徳川家康(演:松本潤)の幼少期から、ずっと支え続けた石川数正(演:松重豊)。

しかし小牧・長久手の戦いの後、彼は羽柴秀吉(演:ムロツヨシ)に寝返ってしまったのです。

それはなぜなのか?そして大きな痛手をこうむったであろう家康の対策は?

今回は江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀附録)』より、石川数正の裏切りエピソードを紹介したいと思います。

おのれ秀吉!しかし家康は慌てず騒がず

石川数正(松重豊)まさかの裏切り!

画像 : 家康のブレーンであった石川数正。その裏切りは、とても大きなものであった。筈だが……。public domain

……長久手の後豊臣秀吉たばかりて。 当家普第の舊臣石川伯耆守数正をすかし出し。数正上方に参ければ。 当家にて酒井忠次とこの数正の両人は第一の股肱にて。人々柱礎のことく思ひしものゝ。敵がたに参りては。この後こなたと軍法的に見透されば。蝱に目のぬけしなどいふ譬のことく。重ねて敵と戦はん事難かるべしと誰も案じ煩ふに。 君にはいさゝか御心を惱し給ふ様も見えず。常より御けしきよくおはしませば。人々あやしき事に思ひ居たり。……

※『東照宮御実紀附録』巻四

「殿!伯耆守(ほうきのかみ。数正)が出奔いたしました!」

慌てふためく家臣の報告。そりゃそうです。石川数正と言えば、酒井忠次(演:大森南朋)と並んで徳川家をずっと支えてくれた二本柱です。

「あの羽柴筑前(秀吉)めが、すかし出した(そそのかした)に相違ございませぬ!」

「真っ向から戦っても勝てないと思い知ったのであろう。あの卑怯者めが!」

口々に秀吉をそしる家臣たち。永年にわたり徳川家の軍法(戦術、作戦)をつかさどってきた数正が寝返った以上、こちらの手は筒抜けです。

「殿、いかがなされますか!?」

これは一大事……かと思いきや、家康は実に涼しい顔。

「案ずるでない。いつかこんな事もあろうかと、あらかじめ手を打っておいたのじゃ」

殿がそう仰るのだから、何か秘策があるのだろう……しかし何を考えていたのか、家臣たちには見当がつきませんでした。

こんな事もあろうかと……家康の秘策とは

石川数正(松重豊)まさかの裏切り!

画像 : 武田家の滅亡後、甲斐の代官として睨みを利かせていた猛将・鳥居元忠 public domain

……其頃甲斐の代官奉りし鳥居元忠に命ぜられ。信玄が代に軍法しるせし書籍。及びそのとき用ひし武器の類。一切とりあつめて浜松城へ奉らしめ。井伊直政。榊原康政。本多忠勝の三人をもて惣督せしめ。甲州より召出されし直参のものをはじめ。直政に附属せられしともがらまで。すべて信玄時代に有し事は何によらず聞え上よとて。様々採摭有し上にて尚又取捨したまひ。 当家の御軍法一時に武田が規矱に改かへられ。其旨下々まであまねく令せしめ。近国にも其沙汰広く傳へしめられたり。……

※『東照宮御実紀附録』巻四

「彦右衛門(鳥居元忠)、おるか?」

「は、こちらに」

少し時をさかのぼり、家康は甲斐国の代官を任せていた鳥居元忠(演:音尾琢真)を呼び出しました。

「これより当家の軍法を一新する。甲州に伝わる兵法書や武具などを取り集めて浜松へ持たせよ」

「御意」

何と家康は、数正が知らない武田流兵法の導入を進めていたのでした。

そして井伊直政(演:板垣李光人)・榊原康政(演:杉野遥亮)そして本多忠勝(演:山田裕貴)に将兵を調練させたのです。

日夜を分かたぬ猛特訓の結果、徳川家の軍法はすっかり武田流に改められ、そのことは広く天下に知れ渡りました。

石川「古箒」数正の凋落

石川数正(松重豊)まさかの裏切り!

画像 : 甲州流兵法を駆使して武田伝来の赤備を率いた井伊直政。public domain

……徳川殿は小田原と結縁ありし上に。今度の会盟またいかなる事を議し給ふもはかりがたし。そのうへ軍法をも武田が流にかへ給ひしなど京にも聞えければ。豊臣家の上下。さきに彼方に降附せし石川数正が事を。古暦古箒と名付て用なきものゝ様におもひあざけりけるとなん。(駿河土産。校合雑記。)……

※『東照宮御実紀附録』巻四

更に家康は自軍を強化するばかりでなく、小田原の北条氏政(演:駿河太郎)とも連携を強化。

ここまで備えを固めておけば、いかに秀吉とて迂闊に手は出せないでしょう。

家康は数正の裏切りを予想していたのか(何かしら予兆を感じ取っていたのか)。あるいは裏切りなどあり得ないとは思いつつ、予想外の事態も想定した上で先手を打っていたのか。

いずれにしても家康の慧眼に人々は舌を巻き、一方で秀吉の調略に踊らされた数正を古暦古箒(これき/ふるごよみ・こぼうき/ふるぼうき)と嘲笑いました。

古暦とは言わば去年のカレンダー。基本的には何の役にも立ちません。また古箒とは正に使い古しの箒(ほうき)で、数正の官職である伯耆守にかけています。

自信満々で羽柴陣営に持ち込んだ徳川の軍法が、すっかり時代遅れになってしまった……かくして数正の利用価値はすっかり凋落。

今さら徳川家に舞い戻ることもならず、数正は飼い殺しにされてしまうのでした。

終わりに

画像 : 秀吉の猿知恵を先読みし、隙を見せなかった「我らが神の君」徳川家康。たまたまかも知れないが……。

以上、石川数正の裏切りエピソードを紹介してきました。

家康のブレーンを調略すれば、その屋台骨が揺らぐはず……そんな秀吉の思惑が不発に終わり、地団駄踏んで悔しがる様子が目に浮かぶようですね。

果たしてNHK大河ドラマ「どうする家康」では、これがどのようにアレンジされるのでしょうか。松重豊の熱演に、今から期待が集まります!

※参考文献:

  • 『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション
角田晶生(つのだ あきお)

角田晶生(つのだ あきお)

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