大正&昭和

明治神宮はなぜ作られたのか?

新宿から程近い場所に、約73ヘクタールもの緑溢れる土地がある。

東京ドーム約15個分の広さを持つその土地こそ、初詣の参拝者数日本一を誇る「明治神宮」である。

最近では都内屈指のパワースポットとしても有名だが、かつてのこの場所に森はなく、ただの荒地が広がっていたといったら信じてもらえるだろうか。

東京都民にとっては身近な場所だが、あまり知られていない明治神宮に迫ってみた。

明治天皇崩御

明治神宮はなぜ作られたのか?
【※明治天皇】

1912年(明治45)7月30日、明治天皇が崩御した。

日本が立憲君主国となって初めての天皇崩御だったが、大葬とは別に記念行事を行うべしとの計画が持ち上がる。そこに天皇を崇拝する国民の声が上がり、東京に神宮を建設するこことなる。

神宮」とは、天皇や皇室に縁のある祭神を祀る一部の神社のことを指す。

こうして、実業家の渋沢栄一などの有力者により委員会が組織され、当時は御料地として土地の空いていた場所に神宮を建設することが決まった。

場所が決まれば予算である。

領地は「東京公園」を造営する予定だった代々木御料地に決まっていたが、資金は国の税金と国民からの寄付によって調達することになる。国民の寄付が大きかったこともあり、予算を超える金額が用意できたことで、いよいよ造営が始まった。

造営へ

明治神宮はなぜ作られたのか?
【※現在の表参道。かつてはここも東京の外れにあり、荒涼としていた】

10,000万人以上のボランティアが自発的に造営を手伝い、神宮内苑だけでなく、外苑の整備も進む。

荒地だった土地に、日本全国だけでなく台湾や朝鮮半島からも様々な木々を集め、実に12万本が計画的に植樹された。造園に際して成長後は「人工森」になるように一流の学者たちが設計・監修を行い、神宮外苑のイチョウ並木もこのときにデザインされた。

大正8年(1919年)には、明治神宮の参道として東京市が表参道を整備、完成しているが、『明治神宮造営誌』には『青山六丁目ヲ起点トシ、神宮橋ヲモッテ境内南参道ト連絡シ、総延長五百六十五間ニ達ス。道路幅員二十間ニシテ、左右ニ各四間ノ歩道ト、十二間ノ車道ヲ設ケ』との記述がある。

約1kmの参道は道路幅が約36mもあり、歩道は左右に約7mの幅で設けられた。

しかも神宮へ向けて約3°の勾配も付けられており、表参道ヒルズも「建物内に表参道を引き込む」というコンセプトのもと、3°という緩やかなスロープが続いている。

太平洋戦争による被害

明治神宮はなぜ作られたのか?
[画像.明治神宮]

大正9年(1920年)11月1日に鎮座式が執り行われ、体調の優れない大正天皇の名代として、皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)が出席している。

明治天皇の皇后であった昭憲皇太后(しょうけんこうたいごう)が大正3年(1914年)に崩御していたこともあり、明治神宮の創建を後押ししたという側面もあった。

こうして、明治天皇と昭憲皇太后を祭神とする明治神宮が完成したのである。

しかし太平洋戦争の米軍の空襲により本殿は焼失。「代々木」という地名の由来ともなったモミの巨木も撃墜された米軍機の直撃を受けて焼失してしまった。また、表参道のケヤキも同じくほとんどが焼失してしまったため、現在のケヤキは戦後に植えられたものが大半である。

自然と融合する森

明治神宮はなぜ作られたのか?
【※明治神宮の衛星写真。森の濃さがよく分かる。(Google Mapより)】

境内の森は計画的に植林されたものだと書いたが、植林事業は大正4年(1915年)に開始されており、同年に明治神宮創建計画が告示されたことを考えるといかに早い動きだったかが分かる。

植林そのものは「永遠の杜」作りを目標にしていたため、百年先、二百年先を見通し、いかに自然な森になるのかを想定して計画された。

そして現代。当時、計算されたものとほぼ誤差のない状態で森は維持、成長しているというから驚きだ。隣接する代々木公園も合わせると、自然に近い姿の巨大な森が都内にあるということに感動すら覚える。

それも全国から志願した青年団たちの活躍によるところが大きい。

原宿駅の臨時ホーム

明治神宮はなぜ作られたのか?
【※皇室専用ホームの入口付近を新宿方面に見たところ。左手に山手線が走る。】

明治神宮は、そのものがパワースポットだが、なかでも「強運スポット」として有名なのが、「清正井(きよまさのいど)」である。

最初に紹介されてから10年以上経っているが、初詣時期には今でも整理券が発布されるという。初詣といえば、最寄のJR原宿駅に正月のみ使われる臨時ホームがある。山手線が大晦日からの終夜運転を行うときは、神宮側のホームが開放されて神宮橋を渡らずに神宮に入れるようになる。

さらに、原宿駅の北側には簡素な造りのホームだけがあるのを知っているだろうか。

山手線内回りの列車に乗ると原宿のすぐ手前に今でも見ることができる。

これは、大正天皇が宮城(皇居)から各地の御用邸に向かうために造られたが、以降も昭和天皇、今上天皇が利用した「皇室専用ホーム」である。だが、新幹線の全国的な整備にともなって、現在では利用されていない。

最後に

明治神宮は広いだけあって、本殿以外にも色々な見所がある。神聖な気持ちでお参りしたあとは、ゆっくりと森のなかを散策してはどうだろう。

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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