漫画家の鳥山明先生が亡くなりました。68歳という早すぎる旅立ちです。
個人的な話になってしまいますが、私はまさに「ドラゴンボール」世代です。「少年ジャンプ」の発売日には、学校が終わるとすぐに、近くの書店へ猛ダッシュした記憶があります。
「少年ジャンプ」の発売日は、私が住んでいた地域では、毎週月曜日でした。そのため月曜日に体調不良を訴えて、学校を休めば、病院に行ったあと書店に立ち寄り、少しだけ早くゲットすることができます。
今だから言えますが「人造人間・セル編」の時期には、続きを早く読みたいがために、何度か上記の手法(仮病)を使ったことがあります。
TVゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズ、「クロノ・トリガー」なども夜遅くまでプレイし、視力低下の原因にもなりました。
鳥山先生の魅力的なキャラクターデザインがなければ、「ドラゴンクエスト」の成功はありえなかったでしょう。
鳥山先生のご冥福をお祈りいたします
さて、ここでふと疑問が浮かびます。
日本からは鳥山先生のような漫画家が次々と輩出される一方で、スティーブ・ジョブズのような起業家が現れにくいのはなぜでしょうか。
その理由ですが、個人の才能を発揮できる環境が日米で大きく異なる点にあります。
今回の記事では、日本文化の強みである「ソフトパワー」、またクリエイティブコンテンツに関する日米の異なる環境について、考えていきたいと思います。
ソフトパワーによって世界を席巻した「ドラゴンボール」
「ドラゴンボール」に代表される鳥山作品の世界的な成功は、日本文化の「ソフトパワー」を体現する出来事とも言えます。
「ソフトパワー」とは、軍事力や経済力などの強制力を伴う「ハードパワー」とは対照的な概念で、文化、価値観、政策などの魅力によって他国に影響を与える力を意味します。
その一方「ハードパワー」は、軍事力や経済力を用いて他国に影響を与える力を示します。
国際政治学によると、国際関係では「ソフトパワー」と「ハードパワー」のバランスを取ることが重要とされています。アメリカは両方のパワーで世界を支配してきました。
ハリウッド映画や音楽に代表される文化的なアイコンは多くの人々に愛され、アメリカの生活スタイルや価値観を世界中に広めてきました。GoogleやAppleなどのハイテク企業は、革新的な技術で世界市場を席巻し、経済的な影響力を示しています。その一方、アメリカは世界一の軍事力を保持することで、国際社会の中で圧倒的な存在感を放ってきました。
第二次世界大戦後、日本は軍事力を持たない平和主義の国として発展してきたため「ハードパワー」は極めて限定的でした。しかしながら、アニメ、マンガ、ゲーム、ファッション、食文化など「ソフトパワー」の側面では、日本は世界中で高い人気を博し、日本文化への関心と理解を深める役割を果たしています。
この「ソフトパワー」を支える土台として、日本には著作権に関する法律や社会的認識が整備されています。マンガ、アニメ、ライトノベルなど、個人の創造性や才能が直接的に反映される、いわゆるクリエイティブコンテンツの市場が大きく発達しているからです。
このような環境下において、鳥山先生のような才能あるクリエイターが輩出され、世界を魅了する作品を生み出すことができたのです。
発明や特許による起業に重きを置くアメリカ
著作権がきちんと保護されている一方、日本では発明や特許に関しては、大企業や研究機関が独占する傾向があり、個人や若者が参入しにくい状況が生まれています。
特許の取得には高度な専門知識や資金が必要とされ、発明を事業化するには企業との連携が不可欠です。そのため発明や特許の分野では、若者よりも年配者が活躍しやすく、保守的な環境になっていると言えます。
対照的にアメリカでは、特許制度が発明者の権利を強く保護し、個人でも特許を取得しやすい環境が整っています。発明や特許が若者の武器になりやすく、起業家として成功する道が開かれているのです。アメリカの大学では、学生の起業を奨励し、支援するプログラムが数多く用意されており、シリコンバレーを中心として起業家精神が根付いています。
こうした要因から、発明や特許を掲げた起業家が成功を収めるチャンスが数多く存在し、スティーブ・ジョブズ、また最近ではイーロン・マスクやサム・アルトマンなどの人物が輩出されやすくなっていると考えられます。
また、アメリカにおいてマンガ家のような職業は、日本ほど大きな市場が存在せず、才能が埋もれてしまう可能性があります。
アメリカの出版業界では「グラフィックノベル」と呼ばれるジャンルが存在しますが、日本のマンガ市場ほどの規模はありません。アメリカでマンガ家として成功を収めるには、より高いハードルがあると言えるでしょう。
日本とアメリカでは、個人の才能を生かせる分野が異なり、それが成功者の輩出にも影響を与えています。
鳥山先生の成功は、日本の漫画文化という「ソフトパワー」を世界に示した一方で、スティーブ・ジョブズの活躍は、アメリカの起業家精神と特許制度の強みを示していると言えるでしょう。
参考文献:ウォルター・アイザックソン(2011)『スティーブ・ジョブズ I 』(井口耕二訳)講談社
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