西洋史

ヒトラーの功績 について調べてみた【後世への遺産】

1934年、ナチス・ドイツの総統となったアドルフ・ヒトラー

それは、第二次世界大戦への序章であり、ホロコーストへの布石となった歴史のターニングポイントである。

しかし、「ヒトラーがドイツの財政を立て直し、国民の信頼を得た」という話も有名だ。

今回は、敢えて彼の罪、「闇の面」は別として、ヒトラーの功績について調べてみた。

アウトバーン

ヒトラーの功績
※ヒンデンブルク大統領と握手するヒトラー首相(1933年3月)

ドイツは第一次世界大戦での敗北、世界恐慌の影響によりハイパーインフレに見舞われる。480万人ともいわれる失業者が国中に溢れかえっていたのだ。1933年、ヒンデンブルク大統領により首相となったヒトラーは、すぐに対策を講じた。

その最たるものが「アウトバーン」の建設である。現在ではドイツを網羅する高速道路であり、世界でも類を見ない失業者救済事業ともいわれる。片側2~3車線の高速道路を5年間で約3,000kmにもわたって建設した。これによる雇用効果は40万人ともいわれ、建設費のうち46%が労働者の賃金として当てられた。

実際にこの政策を打ち出したのは、ドイツ帝国銀行総裁のヒャルマル・シャハトであり、彼は経済政策全般の責任者でもあるのだが、この計画を承認したのはヒトラーである。
財政困難な中、大量の国債を発行することで、パーキングエリアも備え、有事の際には滑走路としても利用できるほどの高速道路を現在に残している。

国民車計画

ヒトラーの功績
※フォルクスワーゲン・タイプ

1933年、ベルリンで開催されたモーターショーにおいてヒトラーは驚くべき挨拶をした。ある意味モーターショーに相応しく、別の意味ではモーターショーの存在意義を否定するような内容だった。

「自動車が富裕層のためのものである限り、それは国民を貧富の2階級に分ける道具である。国家を支えている国民大衆のための自動車であってこそ文明の利器であり、それは素晴らしい生活を約束するものだ。今こそ、国民のための自動車を持つべきである」

後にドイツ軍の名だたる戦車の設計を手掛けることになるフェルディナント・ポルシェ博士に命じ、1935年にはフォルクスワーゲン計画が立ち上がる。「フォルクスワーゲン」とは、ずばりドイツ語で大衆車を意味しており、1938年にはフォルクスワーゲン・タイプ1の生産が始まった。これによる雇用効果は60万人ともいわれ、戦後のドイツにおける自動車産業の成長の原点もここにあった。

ヒトラーは、「休日には低所得者層が自動車に乗ってピクニックに出られる暮らしが必要」であるとも述べている。

農業政策と自然保護

ヒトラーの功績
※ヘルマン・ゲーリング

直接的な経済政策ではないが、ヒトラーは農業の生産性向上のために「ライヒ農場世襲法」を制定した。

これにより、125ha以下の農林業の土地所有は世襲が原則とされ、譲渡の禁止、担保付加、賃貸禁止とされた。極めて社会主義的な政策ではあるが、当時のドイツは各種原料と食料の輸入率が85%だったことを考えると当然の措置だったといえよう。

さらに、1934年には動物保護の観点から 「国家狩猟法」が、1935年には「ライヒ自然保護法」が制定される。特にライヒ自然保護法はヒトラーの右腕ともいわれたヘルマン・ゲーリングの肝煎りで行われた。20世紀初頭のドイツは他の先進国と同じように開拓や伐採によって荒地が目立つようになっていた。そこで、国家事業として植林や野生動物の生態系を守るための法律を制定したのである。

これらの法律はナチスが作った法律の中では珍しく戦後も禁止されることはなく、連邦共和国により若干の変更はされたものの、その後も事実的に効力を維持した。

V2ロケット

ヒトラーの功績
※V2ロケット

第二次世界大戦当時、ドイツの軍事技術は通信とレーダーを除くほとんどの分野において連合国側を上回っていた。その代表が世界初の軍事用液体燃料ミサイル「V2ロケット」である。もともとは、将来の宇宙旅行を目的として1929年から研究されていたものだが、やがて軍事的な利用価値に着目した軍部によって兵器へと転用された。その研究開発には、後にアメリカでアポロ計画を主導したヴェルナー・フォン・ブラウン博士が参加していたことでも知られている。

勿論、すぐに実戦配備されたわけではなく、何度もの試作を繰り返し、最終的には1942年になって初めて打ち上げに成功した。そのときの記録では、宇宙空間に到達した人類初の人工物となり、192kmの飛距離を出している。

実戦に投入されたV2ロケットは、約1トンの爆薬を弾頭に搭載し、マッハ4の超音速で飛行、さらに自動制御装置で誘導されるミサイル兵器であり、当時の連合国にはこれに対する防御技術はなかった。

しかし、大戦末期になってフォン・ブラウンがアメリカに亡命したことにより、やがては軍事利用から宇宙探査という本来の目的のために大きく貢献することになる。皮肉にも、ナチス・ドイツによるフォン・ブラウンへの援助がなければ世界のロケットの開発は大幅に遅れていただろう。

最後に

今回は敢えてヒトラーが残した功績のみを調べてみた。多くが現在にまでつながる思想や技術ばかりである。
無論、彼とナチスドイツが行った罪を考えれば「功績」という言葉も不適格かもしれない。

最後にある詩人の言葉で締めよう。

「英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸である」

ヒトラーの登場は、英雄を必要とした時代だったのだ。

関連記事:アドルフ・ヒトラー
アドルフ・ヒトラーとオカルティズムについて調べてみた

関連記事:軍事技術
軍事技術から転用されたものについて調べてみた

 

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コメント

    • 名無しさん
    • 2021年 7月 04日 6:59pm

    ヒトラーは日本人に対しては悪事を働いてはいません。
    対してルーズベルトはどうでしょうか?
    スターリンは、毛沢東は?
    自分にはルーズベルトの戦争犯罪が裁かれないでいることのほうが不思議でなりません。
    欧米人と一緒になってヒトラーを糾弾すす前に、日本人に対する悪人を糾弾すべきでしょう。

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