調べてみた

宇宙船の破損事故により人類史上2番目に宇宙に長期滞在した宇宙飛行士、371日ぶりに地球に帰還

流星塵による宇宙船破損で、6ヶ月間の宇宙滞在延長

画像 : 9月27日地球に帰還したフランク・ルビオ博士 2017 NASA Astronaut Frank Rubio. public domain


宇宙船の不慮の事故により、1年以上となる371日間、宇宙に滞在していたNASAの宇宙飛行士、フランク・ルビオ博士が2023年9月27日、カザフスタンの田舎に無事着陸、地球帰還した。

ルビオ博士は、今回が初めての宇宙飛行であったという。

彼は約1年前の2022年9月21日、ロシアのロスコスモス所属のセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士、同じくロスコスモス所属ドミトリ・ペテリン宇宙飛行士とともにソユーズカプセルに乗って地球を飛び立ち、国際宇宙ステーション(ISS)に到着した。

画像 : ソユーズ搭乗前のペテリン(上)、ルビオ(真中)、プロコピエフ(下) パブリックドメイン

彼らは本来、約6ヶ月間の宇宙滞在ミッションを行って2023年3月28日に地球に帰還する予定だったが、流星塵がソユーズカプセルに衝突し穴が空くという不慮の事故により、やむなく宇宙に留まらなければならなくなったのだ。

さらに2022年12月、ソユーズカプセルに空いた穴から液体や気体の放熱をするラジエーターの冷却材漏れが発生し、彼らが安全に搭乗できる温度ではなくなってしまい、修理不可能になるという事態に陥り、地球に帰還する手段がなくなってしまった。

画像 : ソユーズ  パブリックドメイン

壊れたソユーズカプセルは地球に送られ、2023年2月、新しく無人のソユーズカプセルが国際宇宙ステーションに送られたが、スケジュールの都合により3人はさらに約6ヶ月間、宇宙に留まらなければならくなってしまった。

危機的状況に3度も見舞われながら、2023年9月27日、3人はようやく無事に地球に帰還することができたのだ。

約1年にわたる宇宙滞在でNASAのルビオ博士は、地球を約5,936周を周回。

これは約2億5,300万km、地球と月の往復約328回に相当するという。

彼はまた、合計約21時間に及ぶ3回の船外活動任務を行なっている。

371日ぶりに地球に帰還した3人は、微重力下の国際宇宙ステーション(ISS)内で長期間滞在したために自分の脚で歩くことができず、ソユーズカプセルから引きずり出されて運ばれることになった。

意図せず将来の宇宙探査への道を開拓

しかし、彼らの1年以上にわたる宇宙滞在は、長期にわたる宇宙飛行について学ぶ、予期せぬ機会をもたらしたという。

NASAのビル・ネルソン長官は声明で、

「彼らの宇宙滞在時間の記録更新は、単なるマイルストーンではなく、長期にわたる宇宙ミッションへの理解に大きく貢献した。

月、火星、そしてその先への将来の探査への道を切り開く、真の開拓者精神を体現してくれた。」

と述べている。

NASAによると、これまでのアメリカ人による宇宙飛行滞在時間の最高記録は、2021年から2022年にかけてISSで連続355日間を過ごしたヴァンデ・ヘイ氏が保持していたが、今回、ルビオ博士が16日間上回り、記録を塗り替えることになった。

ちなみに、宇宙滞在の世界最長記録は、1994年1月から1995年3月にかけてミール宇宙ステーションで437日間滞在した、ロシア人の故ヴァレーリー・ポリャコフ宇宙飛行士である。

(ミール宇宙ステーションは、2001年3月にその役割を終え、南太平洋上の大気圏で燃やされ廃棄処分となっている)

画像 : ヴァレーリー・ヴラジーミロヴィチ・ポリャコーフ  cc : Mil.ru

宇宙での心の癒しは植物の成長観察

4人の子どもをもつルビオ博士は、地球帰還8日前の9月19日のISS機内でのインタビューで、

「もしも、ISS滞在期間が当初予定の2倍になると最初から分かっていれば、おそらくミッションを断っていたと思う。

家族と長い間離れているのはとてもつらかったが、延長されたミッション中は『前向きでいよう』と懸命に努力した。

毎日現場に出て仕事をする必要があったので、仕事と使命だけに集中することで、精神を安定させることができた。」

と語っている。

実際にルビオ博士は延長された宇宙滞在中、「微小重力下で細菌がどのように動作するか」のテストをはじめ、さまざまな科学実験を実施した。

なかでも、彼のお気に入りの実験はトマトの木の栽培で、成長してゆくその姿に心癒されていたという。

宇宙長期滞在が人体にもたらす悪影響はまだ未知数

地球に帰還してから2週間経過した現在は、「ルビオ博士がこれから地球上での生活にどれだけうまく適応できるか」に注目が集まっている。

宇宙に長時間滞在すると、筋肉の変性、骨量の減少、視力の低下、平衡感覚の障害を引き起こす可能性があり、時には脳の形状が変化する可能性もあるという。

とくに今回、初めての宇宙滞在だったルビオ博士にとっては、人類史上2番目となった371日間という長期にわたる宇宙滞在が、彼の身体にどれほどの影響を及ぼしているかは未知数といわれている。

さらに、ルビオ博士が完全に正常な状態に戻るには、2ヶ月から6ヶ月の時間を要する可能性があると予測されている。

プロとして厳しい訓練を受けてきた宇宙飛行士が371日間の宇宙滞在で、人体への悪影響が未知数とされているとなると、民間人による年単位の宇宙長期滞在は、もう少し先の話になるのかもしれない。

参考 Record-breaking astronaut Frank Rubio finally returns to Earth after accidentally spending 371 days in space | LIVE SCIENCE

 

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藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

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